多環芳香族炭化水素(PAH)は複数の芳香環が縮環した炭化水素である。広い共役系内に非局在化したπ電子に由来する、可視領域での発光特性や固体状態での電気伝導性といった性質を持つ。本研究では、歪んだ分子を利用するという戦略に基づいたPAHの新規合成法の開発に取り組んだ。特に、ヘテロプロペランに適切な反応条件を設定することにより歪みの解放を含む反応を引き起こし、非交互炭化水素や複素芳香族化合物、スピロ環式PAHに変換できることを示した。また、多段階の化学変換を経ることにより、連続アズレン環構造を有するナノグラフェンの合成を行い、その性質の解明に成果を挙げた。
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