研究課題/領域番号 |
19K22189
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
千田 憲孝 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (50197612)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 全窒素糖 / 連続多重シグマトロピー転位 |
研究実績の概要 |
D-グルコースに代表されるアルドースの水酸基をすべて窒素に置換した糖(全窒素糖と呼ぶ)は、天然には存在しないが、アルドースと同様のコンホメーションを有すると思われ、また窒素原子は酸素原子と同様、強固な水素結合のドナー/アクセプターとして働くことが期待される。よって全窒素糖ならびに全窒素糖を含有する化合物はノジリマイシンに代表されるアザシュガーやカナマイシンなどのアミノグリコシド系抗生物質と同様に強い生物活性を示すことが予想される。 また有機分子触媒やキラルリガンドとしての機能も期待される。しかしこれまで全窒素糖の合成例はなく、その機能は全く未解明である。本研究では、連続的多重Overman転位による窒素導入により、炭素数5ならびに炭素数6の全窒素糖を短工程で合成すること、およびそれらの生物的・化学的機能を探索することを目的としている。2020年度における研究の結果、以下の成果を得た。 1)全窒素ヘキソースの合成:D-がラクトースから一工程で得られ るアリルポリオールを過剰量のトリクロロアセトニトリルと反応せしめ、ペンタキスイミデートへ導いた。これを加熱するとOverman転位が起こり、1回転位体が生じるが、これは新たなアリルイミデート構造を有するので、さらに転位を起こし、最終的に五重転位体が得られた。転位体のビニル基を酸化分解し、トリクロロアセトアミド基を加水素分解によりアセトアミド基とし、D-グルコ型全窒素糖を合成した。 2)全窒素糖ライブラリの構築: 上記1)の手法を各種単糖類に適用することにより7工程での全窒素ヘキソース,ペントースへ誘導することができ,全7種類からなる全窒素糖ライブラリを作成することができた。 3)全窒素糖誘導体の合成:合成した全窒素糖にアルコール類を酸触媒存在下反応させると,対応するN,O-アセタールが生成することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度における研究により、以下の成果を得た。1) 全窒素ヘキソースの合成:D-ガラクトースをWittig反応によりペンタオールへ誘導した。これを2019年度に見出した全窒素ペントース合成法と同様の反応により,ポリイミデートへ誘導し、五重Overman転位を行ったところ、五重転位体が得られた。これはペントースと同様の変換により、D-グルコ型の全窒素ヘキソースへ誘導することができた。 Overman転位が5回連続で進行することは世界で初の知見であり、有機合成化学上、興味ある成果である。また、ペントース型、ヘキソース型の全窒素糖ライブライの構築にも成功した。さらに,合成した全窒素糖にアルコール類を酸触媒存在下反応させると,対応するN,O-アセタール誘導体を合成できることを示した。合成した誘導体のうち,コレステロールに全窒素アラビノースを導入した誘導体が,腫瘍細胞の増殖抑制活性を示すことが見出され,全窒素糖誘導体が興味ある生物活性を示すことを世界で初めて明らかにすることができた。 以上の成果より,本研究は順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
炭素数5と炭素数6の各種立体配置を有する全窒素糖をさらに大量合成し、「全窒素糖ライブラリ」の拡充を目指す。また,合成した全窒素糖にアルコールや芳香族化合物を導入し,全窒素糖のO-グリコシドならびにC-グリコシド誘導体を合成し,これらの生物活性を中心とした機能解析を行う(酵素阻害活性、細胞毒性、抗菌活性など)。また 、N-アセチル基をすべて脱保護したポリアミン型の全窒素糖や、アミンを他のアミドなどとした誘導体も合成し、同様の解析を行う。同時に有機分子触媒や金属触媒のリガンドの可能性も検討し、全窒素糖の機能解析へ研究を展開する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大のため,2020年4月~5月はキャンパスが閉鎖となり,実験を行うことができなかった。また6月以降はキャンパスは部分的に開放されたが,研究室に収容できる人数が通常の約半数程度に制限されたため,年間の通算実験時間は平常時の半分以下となった。このため実験に要する経費が大きく減少した。また,学会はすべてオンラインとなったため,成果発表に係る経費(旅費)も発生しなかった。これらの理由により次年度使用額が生じた。 本年度は,まだ完全ではないが,実験をある程度行うことができるため,ターゲット化合物(全窒素糖を有する配糖体化合物など)の合成とその機能評価に向けて次年度使用額と今年度使用予定額を用いて研究を展開する計画である。
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