研究課題/領域番号 |
19K22190
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
川崎 常臣 東京理科大学, 理学部第一部応用化学科, 准教授 (40385513)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 炭素同位体不斉 / アミノ酸 / ストレッカー合成 / 不斉増幅 / 不斉認識 / 水素同位体不斉 / 不斉合成 |
研究実績の概要 |
キラルなα-アミノ酸の前生物的合成反応と考えられているストレッカーアミノ酸合成に着目して研究を実施し、すでに報告した基質に加え、新たにアミノ酸が不斉自己複製する気質を見出した。本基質においてもキラル中間体アミノニトリルの顕著な不斉増幅を明らかにし、鏡像体過剰率が最初に約5%であっても、溶解と析出を繰り返す加熱/冷却プロセスさらにより、最終的にほぼ光学的に純粋な状態にまで増幅可能である。アキラルアミン、アキラルアルデヒド、シアン化水素による三成分反応の進行と引き続くアミノニトリルの自発的動的優先晶出に基づく不斉発生と増幅を報告した。 さらに、アキラルなベンズヒドリルアミンのエナンチオトピックなフェニル基の一方をエナンチオ選択的に重水素標識し、得られるキラルベンズヒドリルアミンを用いる高立体選択的ストレッカー合成を明らかにした。すなわち、前述の固体アミノニトリルの顕著な不斉増幅に基づいて、水素同位体不斉がアミノニトリルの立体化学を制御可能な反応である。(S)-ベンズヒドリルアミン-d5を用いるストレッカー反応によってL-アミノニトリルが、(R)-ベンズヒドリルアミン-d5を基質としてストレッカー反応、引き続くアミノニトリルの不斉増幅をおこなうとD-アミノニトリルがそれぞれ>99.5% eeで得られた。アミノニトリルは、光学純度を損なうことなくアミノ酸へと加水分解できることから、本結果は、水素同位体置換キラル化合物を用いる高立体選択的ストレッカー合成を明らかにした初の例である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、炭素同位体(C-13/C-12)置換により生じる極微小不斉のみを起源(不斉源)として用い、LおよびD型アミノ酸をストレッカー合成によって高エナンチオ選択的に合成することを目的とし、相対質量差8.3%(C-13/C-12)、中性子1つ分の僅かな違いにより生じる極微小不斉の超高感度識別に挑戦するものである。現在までに、水素同位体置換キラルベンズヒドリルアミン-d5の不斉合成を実現した。すなわち、キラル触媒を用い、重水素標識イミンに未標識フェニルボロキシンを不斉付加させると(S)-ベンズヒドリルアミン-d5が得られた。同一不斉の触媒を用いて、未標識イミンに重水素標識フェニルボロキシンを作用させたところ、逆の絶対配置をもつ(R)-ベンズヒドリルアミン-d5を高エナチオ選択的に合成する方法を見出した。本研究の目的である炭素同位体不斉の高感度識別実験に用いる標識ベンズヒドリルアミンの合成に適用可能な方法であり、炭素13を導入した基質を用いることにより合成することが可能である。また、これまでに報告した固体アミノニトリルの不斉発生・増幅の手法を水素・重水素同位体置換キラルアミンに適用し、立体選択的反応とすることにより、水素同位体不斉の高感度識別に成功した。水素と重水素の相対質量差は100%であり、その不斉についても炭素同位体に比べて大きいと予想される。現在までに得られた知見は、炭素同位体不斉に基づく高エナンチオ選択的ストレッカー合成の実現に向けて極めて重要であり、さらに精密な不斉認識に基づくアミノ酸合成の実現を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
炭素同位体置換キラルベンズヒドリルアミンの不斉合成を実現する。すなわち、水素同位体置換キラルアミンの不斉合成手法を適用し、標識イミンに未標識フェニルボロキシンを不斉付加させて炭素同位体置換(S)-ベンズヒドリルアミンを、同一不斉の不斉源を用いて、未標識イミンに標識フェニルボロキシンを作用させることにより、逆の絶対配置をもつ(R)-ベンズヒドリルアミンをエナチオ選択的に合成する。得られた、炭素同位体置換キラルアミンを用い、アキラルアルデヒド、シアン化水素とのストレッカー反応、引き続く不斉の向上を伴う温度サイクルをおこない、炭素同位体不斉と相関した絶対配置を有するアミノニトリルの合成を目指す。 これまでの水素同位体置換キラルアミンを用いるストレッカー合成を引き続き実施し、水素同位体の置換数および置換位置を精査することにより、水素同位体置換による固体の物性変化を明らかにする。同位体置換に由来する異性体一分子のエネルギー差は極微小であり計算化学の手法によっても算出は困難であるが、結晶形成によって固体として一分子の差が累積され、溶解と析出を繰り返す不斉の向上過程において顕在化する過程を明らかにする。さらには、水素および炭素同位体置換キラルアルコール等を溶媒やキラル添加剤として用いるアミノ酸合成に挑戦し、鏡像体過剰率や標識比率を低減した化合物を用いる反応に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は有機合成に基づくものであり、溶媒や薬品、シリカゲルなどを頻繁に使用する。それらの使用量は合成や精製の効率によって変動するため、当初計画からの変更が生じ、未使用額が生じた。これらの多くは次年度の物品費、とりわけ試薬や溶媒などの購入経費に充てることとしたい。
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