アキラル化合物であっても、炭素同位体置換まで考慮すると多くの化合物は、炭素同位体不斉を有する。本研究は、炭素同位体(炭素13/炭素12)置換により生じる極微小不斉のみを不斉源として用い、LおよびD型アミノ酸をストレッカー合成によって高エナンチオ選択的に合成することを目的とした。 アキラルアミンのエナンチオトピックな置換基の一方に炭素13を導入したキラル化合物を不斉合成した。得られたS-およびR-同位体置換キラルアミンを用い、アキラルアルデヒド、シアン化水素とのストレッカー反応、引き続く固体アミノニトリルの不斉増幅を実施したところ、アミンの炭素同位体不斉に対応した高鏡像体過剰率(>99% ee)のアミノ酸合成中間体が得られた。本結果は、中性子1つ分という僅かなちがいに基づく微小不斉が、高鏡像体過剰率のアミノ酸を与える起源として有効に作用したことを示す。 さらに、水素同位体置換キラルベンズヒドリルアミンを用いる実験では、固体アミノニトリルの顕著な不斉増幅によって水素同位体不斉を高感度に識別し、高鏡像体過剰率のアミノニトリルを与えるストレッカー合成を明らかにした。ベンゼン環の重水素標識数を減じたキラルアミンを不斉合成し、重水素一置換キラルアミンがアミノ酸合成の不斉源として有効に作用することを見出した。また、置換パターン(ortho/meta/para)の違いにより、誘導されるアミノ酸の分子不斉(D/L)が異なる逆転現象を新たに見出し、本現象が水素同位体ジアステレオマー(擬エナンチオマー)のごく僅かな溶解度差(約0.6%)に起因することを明らかにした。 本研究によって得られた知見は、L型アミノ酸など生体関連化合物の不斉の起源に関連する。アキラル化合物であっても、同位体置換による微小不斉が、アミノ酸合成の不斉の起源として作用した可能性を示す学術的意義を有する。
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