研究課題/領域番号 |
19K22192
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
熊谷 直哉 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 主席研究員 (40431887)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | π平面 / グラフェン / 強塩基 / キノリン / 非共有結合性相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究では,独自にデザインした1原子欠損型カーボンナノシート: TQ(TriQuinoline)の化学を展開する。1原子サイズの欠損空隙を有する剛直分子としては最小クラスであり,3つの芳香族性sp2窒素の非共有電子対に指向された空隙はカチオン類の特異的認識空間となり,様々な応用展開が期待できる新分子である。研究開始時点の予備的な合成法ではTQ合成の最終ステップの収率は10%以下であったが,合成ルートの抜本的見直しを行い,キノリンユニットの3連結法から脱却し,2連結後のイミン形成による環化と続く外郭補強反応による3つ目のキノリン形成法を開拓し,高収率でTQ分子を得る新規合成法の確立に成功した。外郭補強反応時,中間体が捕捉不可能な高速ヒドリド移動反応の介在が示唆されたため,DFT計算による反応機構解析を行った。TQ合成中間体は電子不足π平面分子であるためface-to-faceで会合する傾向があり,ヒドリド受容中間体とヒドリド供給中間体が安定中間体を形成して高速な分子間ヒドリド移動反応が進行していることを突き止めた。得られたTQは常に中心がプロトン化されており,プロトンNMRで22ppm以上の特異な化学シフトを示す。このプロトンを重メタノール中で追跡すると一週間以上保持されることが明らかとなり,30分以内にプロトン交換が完結するプロトンスポンジに比して遙かに強力な速度論的プロトン保持能力を有していることがわかった。さらに,TQはコロネンなどの同サイズのπ平面性分子とface-to-face型で会合するだけでなく,大環状のシクロパラフェニレン[12]CPPとCH-π相互作用によりedge-to-face型の超分子錯体を形成する事が明らかとなり,DFT計算・AIM解析によっても錯形成が支持された。水溶性を利用してDNAへのインターカレーションが起こることも確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目標であったTQの新合成法の確立だけでなく,その合成反応における特殊性を計算化学により明らかにすることができた。さらに,プロトン保持能力,超分子錯体形成,DNAへのインターカレーションなど,予想を遙かに上回る特異化学物性が次々と明らかとなり,幅広い読者層を有する国際学術誌に論文掲載に至った。
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今後の研究の推進方策 |
TQはキノリン環連結部位の水素間反発により完全平面にはなっていない。キノリンからキナゾリンへとユニット構造を変更することで水素間反発をアトラクティブな水素・窒素間水素結合にすることが可能で,平面性を高めさらなるプロトン保持性能を有する誘導体合成が可能になると考えられる。さらに,キノリンユニット数を4枚,6枚とすることで,より広い間隙を有する立体型誘導体の合成が可能となる。これらの新規誘導体を鋭意合成し,その綿密な機能解析を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は計算化学による機能解析が予想以上に多く,消耗品費を抑えることができた。次年度は新たな誘導体合成のため試薬類などの消耗品費が増加することが予想され,そこへの充当を考えている。
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