研究課題/領域番号 |
19K22193
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
石森 浩一郎 北海道大学, 理学研究院, 教授 (20192487)
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研究分担者 |
内田 毅 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (30343742)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | ナノディスク / 膜結合蛋白質 / 電極反応 / 酸化酵素 |
研究実績の概要 |
本年度は以下の実験項目について検討を行った。 1.膜結合蛋白質のナノディスク化とその機能評価 光駆動塩素イオン(Cl-)ポンプ蛋白質であるハロロドプシン(HR)のナノディスク化を試み、その最適条件を見出すことで、古細菌の細胞膜を用いてナノディスク化したハロロドプシン(NL-HR)、および人工脂質POPC(1-palmitoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine)を用いてナノディスク化したハロロドプシン(POPC-HR)の機能や構造について検討した。ナノディスク化HRは、いずれも界面活性剤であるn-dodesyl-β-D-maltosideで可溶化したHRや、古細菌膜から膜に結合したまま単離したHRに比べ、塩素イオンの解離親和性が高く、これはHR三量体が単一でナノディスク化されることにより、HR三量体間の相互作用が失われたこと、あるいは塩素イオンの解離時における構造変化が抑制されることなどが原因であると考えられた。さらに光照射後の過渡スペクトルの解析から、膜表面が負に帯電しているNL-HRに比べ、膜表面が中性であるPOPC-HRの方が塩素イオンの取り込み速度が速く、膜表面の電荷が塩素イオンポンプの効率に影響を与えることが示された。 2. cbb3型シトクロム酸化酵素の電極表面における還元反応の追跡 コレラ菌由来のcbb3型シトクロム酸化酵素(cbb3)を電極上に固定し、その還元反応の追跡と酸素還元反応の効率を検討した。この実験項目については、ストラスブール大学のPetra Hellwig教授との共同研究として実施し、その測定はストラスブール大学の研究室において行った。その結果、可逆的な還元・酸化反応が電極表面で進行することを確認でき、今後のナノディスク化cbb3測定にあたり、基礎的な測定データを収集することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハロロドプシンのナノディスク化については、当初の予定通り最適な精製方法を確立することができた。さらに、当初の予想とは異なって、ナノディスク化HRの方が、古細菌の膜中のHRよりもはるかに高い塩素イオン親和性を示す結果が得られ、ナノディスク内の環境が天然状態と異なっていることが示されたが、HRの塩素イオン親和性に影響を与える構造的因子を明確にすることができた。さらに論文投稿に必要なデータがほぼそろっていることから、この実験項目については、期待通りに進んでいると判断できる。 一方、cbb3の電極上の還元反応の追跡においては、当初の予定通り追跡可能であることを確認でき、同種酵素での実験結果をほぼ再現できた。さらにストラスブール大での測定時間に余裕があったことから、ウシ心筋由来の同種酵素についても同様な実験を行うことができ、cbb3の場合のような再現性、信頼性の高い測定結果は得られなかったものの、電極上でその還元反応を追跡できることが確認された。これまで高等動物由来のシトクロム酸化酵素は、その構造安定性や複雑なサブユニット構造から電極上での還元反応の再現は困難であったにもかかわらず、今回のような結果が得られたことから、予想を上回る点があったと判断できる。 また、PGRMC1に関する実験項目については、2019年度末に集中して実施の予定であったが、コロナウイルス感染防止のため、研究室における研究活動が制限され十分に行うことができず、当初の予定通りに進行していない。 以上、PGRMC1関連の実験が進まなかった面はあるものの、HRやcbb3については当初の予想通りあるいは上回る点もあったことから、全体としては、おおむね順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、HRとcbb3の実験項目において、ほぼ当初の予定通り実験等を進めることができたことから、2020年度はナノディスクを用いた蛋白質の集積化、配列化について本格的に検討する。HRについては、2019年度までに確立したナノディスク化法を用い、末端をマレイミド化したSAM修飾金基板上への固定を試みる。ナノディスク化HRとしては、人工脂質を用いることで容易に収量を上げられるPOPC-HRの利用を検討する。 ナノディスク化cbb3も、既に予備的な実験からナノディスク化が可能であることは確認しており、HRのナノディスク化の際に得られた知見も合わせて、より効率がよく、高純度のナノディスク化cbb3が電気化学的測定に十分な量得られる精製方法を確立できると期待できる。Hellwig教授とは、次回のストラスブール大での電気化学的測定の時期について打合せを済ませており、2020年11月の実験、測定を予定しているがコロナウイルス感染の危険性がある場合には、資料のみ先方に送付して測定することも視野に入れて協議している。先方で測定する場合においても、冷凍下での蛋白質試料の送付については経験済みで大きな問題はなく、また、本研究者の研究室にはそのデータ解析ソフト等を保有しており、電気化学データをこちらの研究室で解析することに大きな支障はない。 また、2019年度までには予備的な実験しか行われていなかった膜結合酸素添加酵素CYP51とその活性化蛋白質であるナノディスク化PGRMC1との相互作用についても、まず、PGRMC1のナノディスクから実験を再開し、ナノディスク化PGRMC1とCYP51の相互作用解析を中心に、一連の実験を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染防止のため、2月からの研究活動が制限され、予定した実験や測定、あるいは関連する出張等ができなくなったため。
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