研究課題/領域番号 |
19K22196
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平岡 秀一 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10322538)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 超分子化学 / 分子自己集合 / 自己集合過程 / キラルセルフソーティング |
研究実績の概要 |
先行研究では、BINOL骨格に二つのピリジル基を導入したキラル二座配位子(L1)とPd(II)イオンからなるホモキラルな二核Pd(II)かご形錯体のセルフソーティング過程を明らかにした。その結果、自己集合過程の初期段階ではヘテロキラルな中間体の割合が統計的に得られた場合の生成比を超え、かご形錯体形成の前の段階でソーティングが起こることが明らかになった。この結果に基づき、本研究では二座配位子の剛直性がキラルセルフソーティングに及ぼす効果を調べるため、L1と基本骨格が同じで剛直性を変えた新規二座配位子(L2)をデザインし、L2におけるキラルセルフソーティングの過程と比較することで、キラルセルフソーティングの過程を支配する構造要因を明らかにする。2019年度はS体のL2からPd(II)かご形錯体の形成過程をQASAPにより調べ、形成経路はL1の場合ととても似ていることが明らかとなり、L1とL2におけるキラルセルフソーティング経路が異なる場合、それは自己集合経路とは無関係であり、L1とL2の構造特性を反映していることを示す。ラセミ体のL2を用いてPd(II)かご形錯体の形成をQASAPにより解析した結果、ラセミ体を使った場合でもかご形錯体の形成過程はS体の場合と大きな変化は見られなかった。それにも関わらず、S体の場合に比べかご形錯体の形成が遅くなったことから、自己集合の過程でヘテロキラルな中間体を形成していることが示唆された。続いて、ESI-TOF mass測定により、キラルセルフソーティングの機構を詳細に調べるため、R体のL2の一部を重水素化した二座配位子の合成を行い、目的とする重水素化L2 (L2-d6)を高純度で得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、コロナ禍で研究活動は大幅に制限を受けたが、キラルな二座配位子L2とラセミ体のL2の間における自己集合過程に大きな違いがないことを明らかにし、キラルな配位子間の相互作用がキラルソーティングへ及ぼす効果を純粋に議論できる系であることを確認できた。また、R体とラセミ体でかご形自己集合体の形成速度に違いがあることから、自己集合過程でヘテロトピックな中間が生成していることも明らかとなり、中間体の中でキラルセルフソーティングが起こっていることを示唆する結果も得られた。さらに、キラルセルフソーティング過程を定量解析するために必要な重水素化された二座配位子も高純度で合成することに成功し、最終的な解析に向けた準備を整えることもできた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に合成した重水素化された光学活性なR体の二座配位子と重水素化しいていないS体との1:1混合物からPd(II)かご形自己集合体の形成を実施し、これをESI-TOF mass測定により追跡する。これによりR体とS体を含むヘテロ中間体と片方の光学活性体のみから形成されるホモ中間体は分子量が異なるため、質量分析によって判別することができる。また、これらの異性体内におけるイオン化効率は同じであると考えられるため、質量分析のイオン強度から組成比を求めることができる。これにより、キラルセルフソーティングの過程でホモ体とヘテロ体の生成比が統計分布と比べ、どの程度ずれているかを明らかにすることで、中間体の形成段階における速度論支配におけるジアステレオマーの偏りを解析することができる。先研究のL1からなるPd(II)かご形錯体の場合、予想に反し、ある中間体においてヘテロ錯体が優先することが明らかになっている。今回実施するL2においても同じような傾向が観測されるのかに興味が持たれ、ホモもしくはヘテロ中間体への偏りを引き起こす原因を分子論的に解明する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り、ホモキラルセルフソーティングを定量解析するために、重水素化したキラル二座配位子と重水素化していない二座配位子の1:1混合物から自己集合を実施し、質量分析によりデータを解析し、中間体におけるホモおよびヘテロ種の分布を調べ、本研究を完成させる必要がある。また、最終的に本研究成果を投稿論文としてまとめ国際誌に発表する予定であり、これらの計画を遂行するために必要な消耗品費および論文の掲載料などの費用として必要である。
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