研究実績の概要 |
2021年度は、前年度までに合成した重水素化された光学活性なR体の二座配位子と重水素化しいていないS体との1:1混合物からPd(II)かご形自己集合体の形成を実施し、キラルセルフソーティングで生成するジアステレオマーに関する情報をESI-TOF mass測定により得た。R体とS体の取り込みに偏りがある場合、同じ中間体でも最も分子量の大きい全てがR体からなるものと最も分子量の小さいS体のみからなる種が統計分布を超えて多く生成するはずである。測定で得られた結果から1つの中間種に対する同位体分布を各異性体の同位体のシミュレーション結果の重ね合わせとして解析し、各成分の割合を求めその時間発展を解析した。その結果、本研究でも用いたキラル二座配位子の場合、自己集合の開始からほぼR, Sの二座配位子は統計的に分布し、架橋反応が進んで終盤にソーティングが起こっていることが明らかとなった。この結果は、先行研究における構造の異なる二座配位子に比べソーティングが自己集合のより遅い段階で起こっていることを示している。このような、ソーティングが起こる段階の違いの一因は二座配位子の柔軟性にあると考えられ、柔軟性が高い二座配位子では、近接する二座配位子のキラル情報の伝達が悪く、多くの架橋反応が起こることで初めてエネルギー差が生じ、続く反応の活性化エネルギーが上昇することで、自己集合が停滞し、その間にキラルソーティングが起こっていることを示している。このように、これまでキラルセルフソーティングについては生成物の熱力学安定性によってのみ議論されてきたが、互いのキラリティーの認識の動的側面に関する知見を得ることに成功した。
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