研究課題/領域番号 |
19K22201
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伊東 忍 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30184659)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 多糖類分解酵素 / メタン酸化酵素 / 銅錯体 / 酸化反応機構 / 構造活性相関 |
研究実績の概要 |
リグノセルロース系バイオマスは、バイオ燃料の原料として地球上に最も豊富に存在する原材料であり、主に、セルロースやヘミセルロースと芳香族系の高分子(リグニン)で構成されている。このリグノセルロース系バイオマスは、再生可能エネルギーの原料としてのみならず、化学製品の材料としても大きな可能性を秘めている。この様な観点から、セルロースなどの多糖類の効率的な分解方法の開発が急務となっている。本研究では、最近発見された新しい銅含有酸素添加酵素であるPolysaccharide Monooxygenase (PMO)に着目し、酵素活性中心の精密なモデル化と、それを用いた反応機構の解明、および多糖類の酸化的分解反応系の開発をめざして検討を行った。単核銅-活性酸素錯体の化学は、二核銅-活性酸素錯体の化学と比べると遅れており、未解明な問題が多く残されている。また、酵素活性中心の構造を正確に再現するイミダゾール配位子を用いた研究例も非常に少ない。本研究は、このような未開拓の分野に果敢に挑戦し、単核銅-活性酸素錯体の精密モデル化の達成を目的とし、本年度は、以下のような検討を行った。 (1)PMOの活性中心を摸倣した新規配位子を設計し、その合成、単離、精製を行うとともに、合成した配位子を用いて銅(II)錯体を調製し、単結晶構造解析により結晶構造を決定した。 (2)合成した銅(II)錯体の分光学的特性(UV-vis、EPRなど)を明らかにするとともに、酸化還元電位を決定した。 (3)錯体の構造や酸化還元電位、分光学的特性を酵素系のものと詳細に比較検討し、構造と物性の相関関係を明らかにした。 (4)モデル基質を用いて、グリコシド結合の酸化的開裂反応やアルカンの水酸化反応について検討し、合成した銅(II)錯体が触媒として機能することを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた通り、新規配位子およびその銅錯体の合成と構造決定、物理化学的特性評価、触媒反応系の構築などを達成した。また、得られた結果を実際の酵素系ものと詳細に比較することにより、酵素機能解明のために必要な情報を収集することが出来た。さらに得られた結果を基に、次年度に予定している効率的な触媒的酸化反応系の開発と反応機構の解明に向けた準備を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、初年度に得られた成果を更に発展させ、(1)より精密なモデル錯体の創成をめざした配位子の設計と合成、 (2)それを用いた銅錯体の合成、ならびに構造決定、分光学的特性と酸化還元特性の評価、(3)銅(I)錯体と分子状酸素、および銅(II)錯体と過酸化物(過酸や過酸化水素など)との反応による活性酸素錯体の創成と、構造および分光学的特性の評価。特に、銅イオンの対面に位置する2つのイミダゾール基のなす二面角と活性酸素錯体の反応性との相関関係の解明、(4)活性酸素錯体とモデル基質との反応挙動および反応機構の解明、(5)多孔質材料(メソポーラスシリカやゼオライトなど)への担持錯体の調製と、それを触媒として用いたセルロースの酸化的分解反応や不活性アルカンの触媒的酸素化反応の開発、(6)各触媒反応系の反応機構解明、(7)酵素反応機構に対するモデル化学的考察、などを行って行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
銅(II)錯体の合成、構造、物性、反応性に関する研究は、予定通り遂行できたが、銅(I)錯体の結晶化に想定以上に多くの時間が必 要であることが明らかとなった。研究遂行上、錯体の結晶 化は、錯体の構造、物性、反応性を見極めるために必要不 可欠であるため、錯体の結晶化に必要な条件(温度、溶媒 、対アニオンの効果など)の再検索を行う必要が生じた。令和2年度においても引き続き銅(I) 錯体の結晶化に取り組み、その後、予定していた、酸素との反応性や生成する活性酸素錯体の構造、物性、反応性について検討する予定である。
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