研究課題/領域番号 |
19K22203
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
久米 晶子 広島大学, 理学研究科, 准教授 (30431894)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | トリガー / CuAAC / ロック機構 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、触媒サイクルの回転を外部刺激によって1サイクルずつカウントしながら進行させる新しい触媒反応の概念を提出することである。研究を遂行するにあたり解決すべき中心的な課題が二つあり、①触媒サイクルを1回転したのちに触媒中心である金属がトラップされる機構 ②トラップされた金属中心を再び活性化し、もう1回転させて再びトラップする機構である。本年度は、このような反応スキームを構築するために適したCuの配位構造を検討した。いくつかの配位子を検討した結果、常温でトラップ/再活性化の機構が観測でき、また反応が失活することなく定量的に進行するプロトタイプの構造として、2,9-置換フェナントロリン錯体が適することを見出した。この配位子では錯体構造の熱的揺らぎが少なく、CuAAC反応が比較的遅いために、これまで触媒としてほとんど着目されていなかったが、安定構造の錯体構造が容易に推定でき、かつ反応初期から周期に至るまで失活することなく安定した速度で反応すること、また構造の安定性が外部のトリガーによって容易にON/OFFできる領域にあることが本研究において適していると考えられる。この基本骨格に対し、Cu周りに位置するの4つの末端アルキンがどのように反応するかについて、プロトタイプのベンジルアジドをCuAACで調べた。主な着目点として、反応の進行、選択性によるトラップ機構の存在、分子内過程・分子間過程の区別、トリガー機構について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まずCuAAC反応にて単座から2座配位子となる配位子について、反応の進行による銅中心のトラップとCuAAC反応の減速効果について基質の濃度条件から検討したところ、反応がある程度進行することで減速効果があるものの、室温で完全にトラップするには至らなった。そこで、配位子の構造に自由度が少なく、CuAAC反応が進みにくいとされているフェナントロリン配位子の配位部位近傍に末端アルキンを導入し、そのCuAACによる変換を検討した。フェナントロリンの2,9位に末端アルキンを導入し、これをCu(I)と錯形成すると、Cu(phen)2型の錯体を形成し、銅中心近傍に4つの末端アルキンが配置される。これらのアルキンは、銅中心および他方のphen部位と近接していることがNMRより推定される。この錯体にベンジルアジドを添加したところ、全く反応は進行しなかった。ここで、非求核性アミン(DIPEA)を添加すると、極初期にphen部位の解離が見られたのち、徐々に反応が進行し、最終的にはすべての末端アルキンがトリアゾールへと変換された。この反応は常温で40時間程度で完結し、錯体の構造変化を追跡するのに適した反応系であるといえる。さらに錯体内部の銅中心とアルキン、あるいは分子間のアルキンと銅中心の相互作用のどちらを介して反応が進行するか調べるため、配位子過剰条件で同様にDIPEA添加によるCuAAC反応追跡を行った。これらの結果より、以下のことを明らかにした。①錯体内部の4つの末端アルキンはランダムに反応するわけではなく、特定の数が反応したものが優勢となる。②末端アルキンがすべてトリアゾールへ変化するとトラップとは逆に、配位が不安定になり解離する。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの知見から、CuAAC反応進行後、いかにCu中心をトラップするか、またトラップされているCu中心をどのようにトリガーするかについての方針が得られたのでいかに述べる。 Cu(phen)2型に含まれる複数の末端アルキンあるいはアジドの反応過程を材料とすると、室温での反応追跡や分子過程の推定が容易であり、またON/OFF制御も有望であることが分かった。また、プロトタイプのベンジルアジドとの反応性から、どの部分にCuAACによるトリアゾール連結を行うかについての方針が得られた。近傍に配置する基質が末端アルキン→ベンジルトリアゾールへと変換させた場合には、アルキンの銅へのπ配位、トリアゾールの電子不足、ベンジル基の自由度の高さが要因となって逆に基質側をトラップしていると考えられる。したがって、CuAAC反応後によりπ電子系の拡張、あるいは分子内連結部位ができること、また、Cu(phen)2に固定すべき基質をアジドにすることを検討している。 また、反応を開始するトリガーとして、非求核性塩基の添加が有効であることが分かった。これは、反応開始時点において、分子内の末端アルキンが脱プロトン化すると同時にphenの配位座にあるCuがアルキン側に移動し、二つの配位子がかみ合った配位子構造が崩壊することを示している。今後検討すべき事項として、この錯体の解離現象を電気化学的刺激によるCuの価数変化で引き起こすことを試みる。そのためには未検討であるCu(II)状態でのphenとの錯形成および、末端アルキンとの相互作用について検討を行う。
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