研究実績の概要 |
前年度までに2,9-diethynyl-1,10-phenanthrolineを二つ配位させた銅錯体において、CuAAC反応はランダムに起こるのではなく特定の異性体を経由し、最終的にすべてエチニル基はトリアゾールに変換していることを見出した。 今年度、溶媒等を検討したところ、上記の錯体の反応経路は2,9-diethynyl-1,10-phenanthrolineのCuAAC反応をエチニル基が未反応:片側反応:両側反応の割合を最大1:8:1と非対称に進行できることが分かった(ランダム反応では1:2:1)。 一方で、この錯体ではCuAAC反応自体が進行に従い次第に加速する自己触媒効果が見られた。上記のような反応の選択性は通常反応の進行が後続の反応を抑制することで発現するため、選択性と自己触媒効果が同時に見られることは一見異常である。そこで、反応段階で現れる5つの錯体種の割合の時間依存を解析し、1)CuAAC反応の進行に伴いCu(I)2核が関与する2次反応の寄与が大きくなるため加速する 2)単核、2核の過程に関わらず同一のphen上のエチニル基の反応はもう片側の反応を抑制する というモデルによく一致することが分かった。またこの結果は、当初の目的であるCuAAC反応のトリガー化に利用できる。反応前の錯体およびすべてトリアゾールに変換した錯体の酸化還元挙動は反応後の錯体がCu(II)を安定化させることを示した。 本研究の成果として、CuAAC反応を用いたPhen配位子の拡張は組み合った錯体構造を利用するとその変換経路が選択的になり、容易に非対称変換できることを示した。この変換はDNAやアクチノイドへの結合にも利用されている。その過程で一見矛盾する反応の抑制と自己触媒効果が同時に起こることを見出した。このことはまた反応のトリガー化が可能であるという知見を与えた。
|