研究実績の概要 |
将来のメモリー材料やセンシング材料等への応用を念頭に、電子移動、及び分子配向を制御することにより、温度変化で分極が可逆に反転する新しいタイプの極性物質を開発することを目指し研究を行った。初年度は分極反転を実現するために原子価異性錯体(酸化還元異性錯体)、及び原子価異性錯体の中心金属を鉄等の他の金属に置換した錯体の合成と量子化学計算を行った。原子価異性錯体として主にコバルト錯体に着目して検討を行った。酸化還元活性な配位子としてカテコール/セミキノン分子(phendiox)を用いた(H2phendiox = 9, 10-dihydroxyphenanthrene)。キラルな配位子としてcthを用いた(cth = 5, 5, 7, 12, 12, 14-hexamethyl-1, 4, 8, 11-tetraazacyclotetradecane)。低温から室温までの磁気特性の測定によりコバルト-配位子間で電子移動が誘起され高温相がコバルト二価・高スピン(S = 3/2)、低温相がコバルト三価・低スピン(S = 0)であることが示唆された。また、配位子は高温相がセミキノン型、低温相がカテコール型であった。電子移動特性は温度可変赤外吸収スペクトルによっても確認できた。磁性の変化は可逆であり原子価異性が繰り返し観測されることが分かった。コバルト錯体と複合する分子としてコバルトを他の3d遷移金属で置換した金属錯体を合成した。特に鉄錯体を中心に検討を行った。磁気特性の測定によりコバルト錯体とは異なり金属-配位子間で電子移動が誘起されないことが確認できた。
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