研究課題/領域番号 |
19K22210
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
瀧宮 和男 東北大学, 理学研究科, 教授 (40263735)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 二次元構造体 / 環状四量体 / ジオキサボロール環 |
研究実績の概要 |
本年度は、既に予備的合成に成功していた二次元有機構造体の基本構造となる、2,3-ジヒドロキシフェニルホウ酸の脱水環状四量体(以下、環状四量体)の合成の再現性の確認と大量合成の検討より着手した。カテコール部位の保護した前駆体の脱保護条件を精査することで、90%を超える収率で目的物が得られること、1 gを超えるスケールで合成できることを確認した。 本手法の一般性を確かめるため、メチル及びt-ブチル基を導入した誘導体の合成も試み、収率は低下するものの目的化合物を得た。収率低下の原因は、置換基の導入により溶解性が向上し、無置換体と比較して溶液からの析出が起こりにくく、平衡が生成系に偏り難くなったためと考えている。 これらの結果を受け環状四量化反応の機構を検証する目的で、ホウ酸部をカテコールエステルで保護し、逆にカテコール部にフェニルボロン酸を導入した化合物(2-フェニル-4-(ベンゾ[d]ジオキサボロール-2-イル)ベンゾ[d]ジオキサボロール)を前駆体とし反応を行った。その結果、高収率で環状四量体が得られた。このことは、鎖状の高次オリゴマーが生成しても、ボロン酸エステル部(ジオキサボロール部)の交換が分子内で起こり環状四量化が起こること、また環状四量化の溶解性が低いために析出し、平衡が目的物側に偏ることを示している。 これらの結果を総合的に考察し、環状六量体や九量体のような複数の前駆体を必要とするオリゴマーの合成は容易ではないうえに、安定で生成しやすい環状四量体が優先することが予想された。このため、単一の前駆体から合成可能な最終目的物である二次元有機構造体を合成することとした。現段階で予備的な前駆体合成と二次元有機構造体への誘導条件の検討を行っており、目的物が生成していることを示唆する結果を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記のように当初計画していた環状四量体の高再現性合成、及び大スケール合成を達成したことに加え、誘導体の合成を行うことで本手法の一般性も確認できた。さらに、環状四量体化の反応機構についても実験的なアプローチにより、ボロン酸エステル交換と目的物の低溶解性による析出が反応の駆動力になっていることを確認できた。これらは、これまでに例のない正方形の分子構造を持つ環状四量体の合成の一般性を確かめるうえで重要な結果である。また、メチル誘導体も単結晶X線構造解析により構造を確認できており、さらに、無置換体に関して結晶中で分子配向に乱れがあり、ディスオーダーを解析することにも成功している。これらにより新たな分子骨格である環状四量体の構造的特徴を明らかにすることができたと考えている。 これらに加え、反応機構的考察から二次元構造体の合成を目指すことがより合理的であると判断し、その合成に着手した。現時点で、前駆体合成に成功しただけでなく、予備的な合成の結果、及び粉末X線回折の結果より、目的とする二次元構造体の生成を示唆する結果を得ている。以上より予定以上に研究は進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、環状四量体の合成、構造、反応機構について明らかにでき、さらに二次元構造体合成の予備的な実験に着手できたことを受け、来年度は本格的に最終目的物である二次元構造体の合成、単離を試みる。 これまでの結果から、前駆体となる2,3,5,6-テトラヒドロキシ-1,4-ベンゼン二ホウ酸の二つのカテコール部位をアセタール保護した化合物は、市販のジヒドロキシベンゾキノンから4段階で誘導できることを突き止めている。しかし、合成中間体が不安定であり、また最終段階も低収率なうえに、前駆体自体も大気中室温で非常に不安定な物質であるため、合成と精製が容易ではない。このため作り置きができず最終段階の条件検討が容易でないという問題点がある。これを克服するために、研究室に設置済みのグローブボックスを利用することで、前駆体合成と最終生成物の合成反応の条件検討を十分に行えるようにする。 一方、最終生成物は不溶性であり、核磁気共鳴や質量分析を使うことが難しいと考えら、構造同定に困難さが予想される。そのため、IR及びXRDの利用を想定している。また、二次元構造体の構造は比較的単純な繰り返し単位が二次元的に拡張した巨大な平面構造となり、それらが面外方向に積層した構造になると予想される。このような構造を量子化学計算で予測、最適化することを計画しており、このために東北大学金属材料研究所のスーパーコンピュータを用い、周期境界条件を取り入れた構造シミュレーションを行う予定である。これらの実験と計算を組み合わせることで最終的には目的物の合成と同定を行うことを考えている。 一方、物性面では環状四量体がUV光照射下で蛍光発光を示すことを見出しているので、誘導体を含め、それらの蛍光物性を評価する。この目的のため、蛍光分光光度計を本年度の予算で設置し、環状四量体はもとより、最終生成物である二次元構造体の光物性も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年1月以降、COVID-19感染拡大の影響により、輸入試薬および物品調達に大幅な遅延や入手困難な状況が相継ぎ、実験に進捗上必要な消耗品・試薬を入手することができなかったため、日常が戻り次第手配いたし研究を進めて参りたい。
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