研究課題/領域番号 |
19K22217
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大北 英生 京都大学, 工学研究科, 教授 (50301239)
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研究分担者 |
KIM HYUNGDO 京都大学, 工学研究科, 助教 (80837899)
玉井 康成 京都大学, 工学研究科, 助教 (30794268)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 共役高分子 / 絶縁性高分子 / ブレンド / 非晶性 / 結晶性 / 正孔輸送 / 移動度 |
研究実績の概要 |
平成31年度は、以下の研究項目ついて検討した。 【結晶性共役高分子と非晶性高分子のブレンド膜における電荷輸送】X線散乱ピークを示すことが報告されている共役高分子PTB7を用いて、電気絶縁性の非晶性高分子であるポリスチレンとのブレンド膜での電荷輸送を検討した。その結果、PTB7ニート膜に比べて、ポリスチレンとのブレンド膜において正孔輸送特性が向上することを見出した。また、PTB7/PDCBT/PCBM三元ブレンド高分子太陽電池を作製したところ、PTB7/PCBM二元ブレンド高分子太陽電池よりも正孔輸送特性が向上することを明らかにした。三元ブレンド膜の過渡吸収測定を行ったところPTB7の正孔キャリアが観測されたことから、PTB7の正孔輸送特性がPDCBTの導入により向上したことが分かった。 【非晶性共役高分子と非晶性高分子のブレンド膜における電荷輸送】非晶性共役高分子であるMDMO-PPVならびにRRa-P3HTを用いて電気絶縁性の非晶性高分子であるポリスチレンとのブレンド膜での電荷輸送を検討した。その結果、MDMO-PPVニート膜に比べて、ポリスチレンとのブレンド膜において正孔輸送特性が向上することを見出した。これに対して、RRa-P3HTニート膜に比べて、ポリスチレンとのブレンド膜においては正孔輸送特性が低下することが分かった。すべての系に対して電荷輸送特性が向上するわけではないことを示している。 以上の結果をもとに電荷輸送特性が向上するブレンド膜とニート膜の吸収スペクトルを比較すると、ブレンド膜では分子鎖内の秩序が高く有効共役長が長いことを示唆しており、ブレンド膜とニート膜では共役高分子の分子鎖形態が異なることが予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成31年度は、当初計画していたX線散乱ピークを示す共役高分子PTB7あるいは非晶性共役高分子MDMD-PPVと絶縁性高分子ポリスチレンとのブレンド膜に対して電荷輸送特性を検討した。その結果、いずれも共役高分子のみのニート膜に比べて正孔輸送特性が向上することを明らかにすることができた。電荷キャリア濃度は一定と見なせるので、電荷移動度が向上したと考えられ、吸収スペクトルをニート膜とブレンド膜で比較すると、ブレンド膜において分子鎖内の有効共役長が長い形態をとることが示唆され、電荷輸送向上の機構についても知見を得ることができた。さらに、当初計画にはなかった実際の高分子太陽電池においても一種類の共役高分子よりも二種類の共役高分子をブレンドした素子で正孔輸送特性が向上することも明らかすることができ、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
側鎖構造により共役高分子の分子形態が変化することが計算機シミュレーションなどにより予測されているので、分子構造に着目した共役高分子を対象に比較検討を行う。また、マトリックスであるポリスチレンと共役高分子の相溶性や分子量を系統的に変えた組合せについても検討し、相分離構造の観点から共役高分子のブレンド膜中での分子鎖形態と電荷輸送特性の関係についても検討する。さらに、ブレンド膜の高い正孔輸送特性に着目し、太陽電池の正孔輸送層への応用の可能性についても探求する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画にはなかった太陽電池の正孔輸送層への応用に関する知見が得られたため、既存の試料を用いてそちらの研究を優先して行った。当該年度に用いる予定の試料数がその分減ったため未使用額が生じた。この試料を用いた研究は次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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