フォトクロミック分子を有する液晶高分子は,光刺激に応答してマクロな変形を示す。従来の架橋アゾベンゼン液晶高分子などの光運動材料は高密度クロモフォア系であり,光吸収が試料表層のみで起こるため力発生部位が表面近傍に限られていた。光運動材料に空間構造を導入すれば光侵入長の大幅な向上が期待でき,光アクチュエーターの自在スケーリングへの道が拓ける。本研究は,ポーラス型フォトクロミック液晶高分子の創出と,空間構造と光応答性・力学特性の相関解明を目的とした。 2020年度においては,前年度に合成したアゾベンゼン含有ポリウレタンについて,自在成形およびポーラス構造導入を試みた。溶媒および溶融プロセスによりフィルムを作製した後,加熱下において伸長することにより配向フィルムが得られた。配向フィルムに紫外光を照射すると光源に向かって屈曲し,その後可視光を照射すると元の形状に復元した。この可逆変形は繰り返し引き起こすことが可能であった。これは初期形状が水素結合により記憶されるためであると考えている。さらに,フィルム作製時に発泡剤を添加することにより,ポーラス構造を導入することができた。 また,アクリレート系架橋液晶高分子における空間構造制御を検討した。二官能性液晶モノマーとジチオールとの付加反応によりマクロモノマーを合成し,液晶溶媒中で重合・架橋することによりポーラス構造が得られた。走査型電子顕微鏡観察から,二官能性液晶モノマーを直接重合した場合と比較して凝集体の形成が抑制されることが分かった。すなわち,マクロモノマーの利用によりポーラス構造を制御できることが明らかになった。
|