研究課題/領域番号 |
19K22222
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
吉川 浩史 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (60397453)
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研究分担者 |
谷藤 尚貴 米子工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (80423549)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 逆加硫 / リチウム硫黄電池 |
研究実績の概要 |
リチウム硫黄電池は1670mAh/gと従来のリチウムイオン電池の10倍以上の理論容量を有することから、次世代二次電池として大変期待されている。しかしながら、放電過程におけるS-S結合の開裂によってシャトル効果が生じ、多硫化リチウムが生成するため、可逆容量が急激に低下する。本研究では、化学結合などによりシャトル効果をおさえ、高容量かつ安定なサイクル特性を示すリチウム硫黄電池を開発するため、BDT(Benzene-4,4'-dithiol)およびBPD(Biphenyl-4,4`-dithiol)を含む逆加硫体を創製し、その電極特性を検討した。 まず、BDTまたはBPDを硫黄と反応させることで、BDTおよびBPD逆加硫体をそれぞれ合成し、これを活物質とする正極を含むリチウム硫黄電池を作製した。なお、セパレーターには、ポリプロピレンセパレータもしくはカーボンコートしたポリプロピレンセパレーターを用い、電圧範囲1.5~3.0V、電流密度50mA/gもしくは100mA/gで充放電測定を行った。 その結果、BDT逆加硫体について、カーボンコートセパレータを用いることで、従来のリチウム硫黄電池よりも大きな容量を得るとともに、電圧平坦領域(プラトー)も安定した。しかしながら、電流密度を上げると容量は低下した。なお、通常のポリプロピレンセパレータを用いた場合には、電解液が黄色に変色したことから、逆加硫体の一部が溶解したと思われ、カーボンコートセパレータは、シャトル効果を抑えるために重要であることが分かった。また、BPD逆加硫体についても同様の結果を得ており、ベンゼンやビフェニル部位による硫黄の固定化の効果を明らかにしつつある。これらの部位は通常、酸化還元活性(電子活性)ではないが、硫黄のみの場合よりも大きな容量が見られたことから、充放電過程において何らかの寄与があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リチウム硫黄電池の性能改善に向けて、放電過程におけるS-S結合の開裂に伴う不可逆な多硫化リチウムの生成(シャトル効果)を抑制する試みと、さらに大きな電池容量の獲得を本研究の目的とした。現在までに、化学結合などによるシャトル効果の抑制を目指して、BDT(Benzene-4,4'-dithiol)およびBPD(Biphenyl-4,4`-dithiol)などにより硫黄を架橋するという手法(逆加硫体の創製)を検討した。その結果、BDTやBPDを含む逆加硫体では、従来のリチウム硫黄電池よりも大きな容量が得られるとともに、電圧平坦領域(プラトー)も安定し、かつサイクル特性も硫黄単体の場合に比べて改善された。この結果は、我々の方法論が硫黄電池の高性能化に有用であることを示すものであり、研究はおおむね順調に進展していると考えている。また、今回利用したベンゼンやビフェニル部位は明瞭に電子活性部位とは言えないものの、これらを用いることで硫黄そのものよりも大きな容量が得られたということで、今後の研究を進めるうえで、電子活性部位を利用することが有用であることを示す成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究において、硫黄に架橋分子を入れるという逆加硫体の創製が、硫黄電池の高性能化に向けて非常に重要であることが分かりつつある。しかしながら、電流密度を上げることによる容量の低下や、通常のポリプロピレンセパレータを用いることによる逆加硫体の一部溶解が観測され、電池特性劣化の要因となっている。今後は、これらを改善するために、逆加硫体をカーボンナノチューブやナノポーラスカーボンなどのナノカーボンマトリックスに閉じ込めることを考えている。また、現在まで逆加硫体に用いているベンゼンやビフェニル部位は、通常、酸化還元活性(電子活性)を明瞭に示すものではないと考えられているが、硫黄のみの場合よりも大きな容量が見られたことで、電池容量に寄与している可能性があり、その機構解明に取り組む。それとともに、多電子の酸化還元反応を示すテトラチアフルバレン(TTF)骨格を逆加硫体に取り込むことで、意図的な硫黄電池の高容量化とサイクル特性の向上を今後は推進していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、主に、逆加硫体を合成するための試薬やガラス器具などに使用された。幸い、これらの逆加硫体合成にあたって、これまでの知見を基に、試行錯誤することなく、スムーズに行うことができたため、大きな支出をする必要がなかった。また、これらの作製した逆加硫体の電極作製や電池作成、さらには電池特性の計測にあたって、既存の装置や部材などを利用することで事足りたため、それらへ支出する必要はなかった。その結果、次年度使用額が生じた。 今後の使用計画であるが、様々な逆加硫体の合成やそのキャラクタリゼーションのために、多額の消耗品費の使用を計画している。また、実際の合成や電池特性を行う大学院生らへの謝金としても使用することを計画しており、それによって、電子活性部位導入による硫黄電池の高性能化という本研究の目的を達成できると考えている。
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