光合成におけるCO2から糖の変換においては、H2Oを電子源に太陽エネルギーを元に還元力を得る明反応と、得られた還元力を用いてCO2から糖を合成する暗反応とが互いに連動して機能している。この暗反応においては、種々の炭素化合物からなる連鎖反応が閉回路(カルビンサイクル)を形成しており、このことが多様な物質がCO2から合成される一つの鍵となっている。本研究では、光合成のカルビンサイクルにおけるCO2還元固定化戦略に倣い、自己触媒過程を内包する非生物的なサイクル反応をベースとしたCO2から糖の人工光合成の実現を目指した。本研究を遂行するにあたっては、(1)CO2還元の電極触媒の開発、ならびに(2)自己触媒的な反応サイクルの設計に注力した。課題(1)に関しては、適切な添加剤存在条件で炭素系触媒材料を用いることでCO2から糖が電気化学生成することを明らかにした。今後、反応機構の解明を通したファラデー効率の向上が求められる。一方、課題(2)に関しては実験・数理の両面からのアプローチを実施した。実験に関しては、酸性~中性条件において高速にサイクル反応を進める遷移金属触媒を見出した。従来、このサイクル反応は塩基性条件でしか有意な速度で進行しなかったが、本発見に基づき、今後より人工光合成に適した中性条件での展開が可能となった。また、数理的アプローチに関しては、ホルモース反応系を記述する微分方程式モデルを構築し、種々の条件での結果予測が行えるようになった。
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