本研究では、機能性物質の創製と物性制御を念頭に置いて、(1) 固体フッ素源を用いた簡便な合成法を開発し、新規遷移金属フッ化物の探索を行うとともに、(2) 固体フッ素源を用いることによりフッ素量を調節した遷移金属フッ化物の合成を行い、フッ素のストイキオメトリー、構造および物性の関係を明らかにすることを目的とした。 本年度は、昨年度に引き続き、固体フッ素源を用いた合成を中心に研究をおこなった。 Naイオン電池の活物質の候補としてナトリウム鉄フッ化物の高圧合成について検討した。8 GPaの圧力下での合成により、従来の常圧での合成より短時間でペロブスカイト相が得られた。さらに15 GPaでの圧力下で合成を行い、これまでの報告より相純度の高いポストペロブスカイト相が得られた。フランス・ルマン大学のグループと共同研究をおこない、メスバウワー測定によりポストペロブスカイト相の磁性について調べた。そして、結合原子価を用いた考察からペロブスカイト相よりポストペロブスカイト相の方がNaイオンの拡散が速く、電極活物質として有望であることが示唆された。また、フッ化物の合成において固体フッ素源と原料を高圧下で反応させることにより、フッ素の揮発を抑え、フッ素量の調節が可能となり、複合遷移金属フッ化物の新規相(高圧相)の合成に成功した。そして、得られた物質がリチウム電池の活物質として機能することを確認した。さらに、昨年度に引き続きHSAB則を考慮した元素選択に基づき、新規複合酸フッ化物の探索合成をおこなった。その中で新規パイロクロア型酸フッ化物の合成に成功した。 本研究全体を通して、固体フッ素源を用い高圧下での合成と組み合わせたフッ化物の合成およびHSAB則を適用した酸フッ化物の合成のアプローチが新規フッ化物および酸フッ化物の探索に有用であることを確認できた。
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