研究課題/領域番号 |
19K22237
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
下嶋 敦 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90424803)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | シロキサン / POSS / フォトメカニカル材料 / 無機有機ハイブリッド |
研究実績の概要 |
本研究では、無機-有機ハイブリッド型の新しいフォトメカニカル材料の創出を目指し、無機成分としてかご型シルセスキオキサン([RSiO1.5]8, POSS)に注目した。POSSは剛直かつ対称性の高いシロキサン(Si-O-Si)骨格を有するかご状の化合物であり、有機成分と頂点のSi-C結合を介して容易に複合化が可能である。そこで、POSSの一つの頂点に、ジアリールエテンまたはアゾベンゼンをアミド結合を介して修飾し、水素結合を利用して分子結晶を作製した。得られた結晶のフォトメカニカル挙動を調査した。 カルボキシル基を有するジアリールエテンに塩化チオニルを作用させて酸塩化物へ変換した後、1頂点にアミノプロピル基、7頂点にイソブチル基を有するPOSSとのアミド結合形成反応によりジアリールエテン修飾型POSSを合成した。この化合物のt-BuOMe溶液をゆっくりと濃縮することで、太さ数十マイクロメートル、長さ数ミリメートルの比較的大きな針状結晶を得た。この針状結晶に対して側面からUV光を照射すると光源から離れる方向に屈曲し、その後可視光を照射すると元の形状に戻るという、可逆的な屈曲挙動が観測された。この分子結晶は200℃でも可逆的な光屈曲挙動を示した。さらに、空気中で240 ℃まで酸化分解せず、窒素中では269 ℃まで融解しないことが確認された。従来報告されているフォトメカニカル挙動を示すジアリールエテン結晶のなかで、250 ℃以上の融点を持つものは稀であることから、この結晶は高温下での応用が期待される。さらに、カルボキシル基を有するアゾベンゼンを用いて、アミド結合形成によってPOSS修飾型アゾベンゼンを合成した。得られた針状結晶は、上記のジアリールエテン修飾型POSSと同様の光屈曲挙動を示した。 以上、無機成分と有機成分が複合化された新しいタイプの結晶性フォトメカニカル材料の創出に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表的なフォトクロミック分子であるジアリールエテンとアゾベンゼンを用い、アミド結合を介してかご型シルセスキオキサン(POSS)を修飾することで、新しい無機有機ハイブリッド化合物の合成に成功し、水素結合による分子結晶の作製、さらにフォトメカニカル挙動の確認に至っており、当初の計画通りに順調に研究が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
得られた分子結晶の耐熱性や耐溶剤性向上を目的として、シロキサン部位を分子間で連結することを試みる。具体的には、POSSに反応性の官能基としてアルコキシ基やビニル基などを導入し、分子結晶の形成後に重合反応を進行させる。POSSへの官能基導入が困難な場合は、POSS以外のオリゴシロキサンの利用についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、比較的簡単な反応で得られる化合物を用いたフォトメカニカル挙動の評価に注力したため、物品費に占める試薬代の割合が当初の予定よりも小さくなった。翌年度は、これまでに得られた成果を展開するために幅広い分子設計を行う予定であり、初年度未使用額を試薬購入費および分析機器利用料として用いる計画である。
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