研究課題
次世代型の創薬候補分子として、中分子サイズの環状ペプチドが近年注目されている。申請者らの研究グループではこれまでに、人工翻訳系を駆使した環状ペプチドの試験管内分子進化技術を確立し、多彩な生物活性ペプチドの開発に成功している。しかしながら、親水性の高いアミド結合を主鎖にもつペプチドは、一般的に細胞膜を通過できないため、細胞移行配列など余分な配列に頼らずに細胞内標的を阻害する人工ペプチド薬剤の開発原理は、現時点では存在しない。一方で、天然物ペプチドには、細胞膜を通過できるものも多い。例えば、天然物ペプチドの一種であるチオペプチド群は、細胞内の分子標的を阻害するものが多い。そこで本研究では、望みの標的に結合する人工ペプチドリガンド配列と天然物由来の閉環様式を融合させたキメラペプチドを作製し、細胞内で阻害活性を発揮しうる擬天然チオペプチド薬剤を信頼性良く開発する汎用原理を確立することを目指す。本研究課題では、他の閉環様式に移植可能な人工アミノ酸配列の取得(計画A)、簡便にキメラペプチドを生産する方法論の確立(計画B)、をそれぞれ順次達成した上で、最終的に設計したキメラペプチドが望みの生物活性を示すことを確認する(計画C)ことを計画している。本年度は、昨年度までに実施した試験管内選択実験(計画A)で同定したモデル標的タンパク質に結合する人工環状ペプチド配列を組みこんだキメラチオペプチドの試験管内生合成に取り組んだ(計画Bの前半)。具体的には、当該人工環状ペプチド配列を部分配列として有する前駆体ペプチドを無細胞翻訳合成し、ワンポットでチオペプチド生合成酵素で処理することで、人工配列を環状部位に有する人工チオペプチド誘導体の試験管内生産に成功した。
2: おおむね順調に進展している
計画Aに係るモデル標的に結合する人工環状ペプチドの配列を複数取得することに成功したうえ、キメラペプチドの試験管内生合成の実証も完了した。さらに、当該人工キメラチオペプチドの大量調製法の確立ににも着手済みである。
本年度に試験管内生合成に成功した複数種類の人工キメラチオペプチドについて、菌内発現法によってより大量に調製できる培養系の確立を目指す(計画Bの後半)。さらに並行して、微量のペプチドでも実施可能なアッセイ系を用いて、設計した人工キメラチオペプチドの標的阻害能の検証も行う(計画C)。
予定していた学会発表が無くなったため、主に旅費が節約された。余裕ができた分は物品消耗費に充当し、今年度行う予定である人工キメラペプチドの阻害活性実験において、評価する人工キメラペプチドの種類を当初の予定よりも増やすことに充てる。これにより、当研究の実現可能性を引き上げられることが期待できる。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Nat. Commun.
巻: 12 ページ: 696
10.1038/s41467-021-20992-0
Nat. Prod. Rep.
巻: 38 ページ: 130-239
10.1039/d0np00027b
J Am Chem Soc
巻: 142 ページ: 13886-13897
10.1021/jacs.0c05541
巻: 11 ページ: 2272
10.1038/s41467-020-16145-4
巻: 142 ページ: 20329-20334
10.1021/jacs.0c10374
Chem. Asian J.
巻: 15 ページ: 2631-2636
10.1002/asia.202000700
J. Biol. Chem.
巻: 295 ページ: 16180-16190
10.1074/jbc.RA120.015981