研究課題/領域番号 |
19K22247
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
廣瀬 謙造 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (00292730)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 生細胞超解像イメージング / 蛍光プローブ |
研究実績の概要 |
生物学の研究では細胞内小器官の詳細な構造や、分子が形成する複合体の配置を高い空間分解能で可視化できる超解像顕微鏡技術としてSTORM (Stochastic Optical Reconstruction Microscopy)法の導入が進んでいるが、未だ高い空間分解能と時間分解能を両立させる技術は確立していない。そこで、本研究では生きた細胞でのSTORM法に適用できる蛍光プローブ技術の開発を目的とする。 生細胞でSTORM法を可能にする蛍光プローブは、細胞内に可視化対象の分子との融合タンパク質として発現させた抗消光団一本鎖抗体(scFv)に対して、消光団と蛍光物質を共有結合させた細胞膜透過性の化合物(蛍光明滅プローブ)が結合した際に蛍光明滅プローブの蛍光消光が解除され、初めて蛍光性となる仕組みを利用するデザインとした。この系は既存のSTORM法での蛍光明滅に必要な還元剤を必要とせず、生体親和性の高い条件下で、scFvと細胞内に存在する蛍光明滅プローブが可逆的かつ繰り返し結合・解離することで蛍光明滅が期待できる。これまでの予備的実験で、消光団として知られているジニトロフェニル基(DNP)に対するscFvを取得し、このscFvを発現させた培養細胞に蛍光明滅プローブを負荷した際に細胞が蛍光性となることを見出している。本年度はこのプロトタイプのscFvへのアミノ酸変異導入や、蛍光明滅プローブの置換基操作によってscFvと蛍光明滅プローブとの間の解離速度を調節することを目指した。具体的にはscFvへのアラニンスキャンを実施し、蛍光明滅プローブの解離速度に影響を及ぼすアミノ酸残基を同定した。同定したアミノ酸残基をさらに様々なアミノ酸と置換し、解離速度を測定した結果、オリジナルのscFvより約100倍速い解離速度を持つ変異を見つけることができた。来年度は解離を高速化したscFvと蛍光明滅プローブの組み合わせを用いて、生細胞で神経伝達に関連する分子の生細胞超解像イメージングに進む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に計画していたSTORM法に用いる蛍光プローブの高速化が計画通り進展したため。
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今後の研究の推進方策 |
計画通りに生細胞超解像イメージングを実施し、本研究で開発した蛍光プローブ技術の有用性を実証する。具体的には、神経伝達関連分子の生細胞超解像イメージングに取り組み、シナプス内での分子の分布にどのような変化が生じるのかを時間軸に沿って可視化解析する。これらの取り組みを通じて開発した蛍光プローブ技術が実際の生細胞標本での超解像イメージングに適用できることを実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
蛍光明滅プローブとscFvの結合カイネティクスを調節する実験において、当初計画していたよりも少ないスクリーニング規模で所望の性能のカイネティクスを持つ蛍光明滅プローブとscFvの組み合わせが得られたため、試薬等のコストが削減できた。ここで節約できた研究費を次年度の生細胞超解像イメージングを充実させるための試薬・実験動物購入費用、人件費に充当する。
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