研究課題
甲虫の上翅は、外敵から柔らかい組織を保護するための防御機能を有する他、飛翔の際のバランサーの役割を果たしており、軽量さと頑丈さを併せ持つ材料として、航空機、ロボット等の産業分野において注目を集めている。本研究では、甲虫上翅の機械特性の向上に関わるドラスティックな表皮構造変化の分子機構の解明を目的としている。本年度は、甲虫の上翅から同定された表皮タンパク質のアミノ酸配列による分類と上翅形成過程における遺伝子発現解析を行った。1.上翅の形成過程で発現する表皮タンパク質の分類:前年度に同定した硬化前後の上翅に含まれる表皮タンパク質のアミノ酸配列の詳細な解析を行った。その結果、キチン結合ドメインの前後領域に特徴的な配列が見出され、これに基づき大きく2グループのタンパク質に分類可能なことを示した。これらの領域は共にランダムコイル構造を持ち、上翅の硬化前後において発現が異なることを明らかにした。2.上翅形成過程における表皮タンパク質遺伝子の発現解析:上翅の構造形成に関わるタンパク質を明らかにするため、硬化前後の上翅からRNAを抽出し、表皮タンパク質群の発現量の変化を解析した。発現パターンに基づき、表皮タンパク質遺伝子群を3グループに分類することができた。この結果は、1で同定されたタンパク質の発現と相関が見られ、それぞれが上翅の異なる形成段階において発現し、異なる部位や構造の形成に寄与していることが示唆された。3.リコンビナントタンパク質の調製と機能解析:表皮タンパク質の機能解析に向けて、1、2で同定された表皮タンパク質遺伝子のリコンビナントの調製を行った。無細胞合成系において、その調製に成功し、キチン結合能評価などの機能解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
当初計画通り、硬化前と硬化後の表皮に含まれるタンパク質の特徴を見出し、新しいタンパク質グループの存在を示した。硬化前後における発現との相関があることも明らかにした。タンパク質機能解析に向けた準備も整っており、当初の研究目的に向けて、おおむね計画通り順調に進展していると考えている。
前年度に同定されたタンパク質のリコンビナントを調製し、機能解析と材料の調製を行う。1.タンパク質を利用したキチン配向制御2.キチン/タンパク質複合体材料の作製と解析
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Nature
巻: 586 ページ: 543-548
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J Mech Behav Biomed Mater
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http://web.tuat.ac.jp/~biomol/index.html