研究課題/領域番号 |
19K22252
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 大士 京都大学, 高等研究院, 准教授 (20713564)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
|
キーワード | タンパク質 / ホスト-ゲスト化合物 / パラジウム |
研究実績の概要 |
研究計画初年度の2019年度は、これまで予備検討を行ってきたMnL2n型分子ケージ(M=Pd2+)を用いて、ケージ内部空間に単分子包接したタンパク質の基礎的な挙動の研究を行った。その結果、ケージ内部のタンパク質分子は、ネイティブ状態と同様の立体構造を保っている。高温や有機溶剤などの変性環境下でも長期間安定。一度構造が解けてしまった後も、条件を適したバッファー条件に戻せば、元の構造が復元するリフォールディング挙動が観測されるっことがわかった。これは期待以上の安定化効果であり、学術的にも非常に興味深い。しかし同時に、現状のMnL2n型分子ケージを用いることの制限も明らかになってきた。端的には、MnL2型分子ケージとタンパク質が共存可能なバッファー条件の狭さである。これにより、いくつかのタンパク質では、構造を保持した安定な条件でケージ内部空間内にタンパク質を取り込むことが叶わなかった。そこで2020年度は、これら制限を取り除くべく、ケージ分子の設計を見直し、よりバイオコンパチブルな分子の合成を目指す。幸いにも近年の超分子化学分野の発展により、骨格構造を構築する手法は数多く報告されている。研究計画調書記載の通り、目的サイズのケージ分子を作る手法は確立に近づいており設計指針は立っている。金属種を変更するアプローチや、より安定な共有結合を用いるアプローチにより、よい特性を持ったケージ分子が合成、合成が確認出来次第、電子顕微鏡を用いた評価を開始する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題においては、タンパク質の近傍空間を化学構造体により取り囲む、すなわち空間的な修飾を施すアプローチにより、研究計画調書に記載した電子顕微鏡における課題を乗り越える事を目指す。このアプローチにより受けることができる恩恵は、以下の2点である。1) ターゲットとするタンパク質単分子の周辺空間に、多面体形状に重原子を配置することができる。重原子が高い電子コントラストを持ちマーカーのように機能することで、低分子量かつ等方的形状を有するタンパク質でも、適切に単粒子検出、方位アラインアライメントを取ることが可能となる。2) 化学構造体により作られる空間が、タンパク質単分子を他分子より隔離し、分子間相互作用を抑制する。これにより、例えば疎水部が露出した変性状態のタンパク質でも凝集・沈殿を起こすことなく安定に保持することが可能となる。この特性は、フォールディングプロセスを電子顕微鏡測定に必要な高濃度条件下で再現するために必須である。研究計画調書に記載した2019年度の研究計画は、「現状保有するパラジウム錯体ケージの系を用い基礎的な知見を収集する。」であった。2019年度は実際、予備検討でも用いていたPdnL2n型錯体ケージを用いて、空間的に拘束されたタンパク質の基礎的な振る舞いを調査。その結果、空間拘束された酵素は、「nativeの状態と同様に振る舞い同等の酵素活性を保持している」「native酵素が凝集沈殿する条件でも凝集沈殿を起こさない」「室温で長期安定保存可能」「拘束空間中にて部分的変性を起こした場合でも、リフォールディング挙動が観測される」といった期待通りの特性を有していることが明らかになった。しかし同時に、初年度に行った各種試験の結果、現状のタンパク質包接ケージ分子は、いくつかの制限を有していることがわかった。2020年度にはタンパク質包接に適した新ケージ分子を合成し、設定目標の実現を目指す。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに明らかになってきた制限は主に次の三点である。1) タンパク質の包接条件において、100%水系の条件が達成できず、若干の有機溶剤(ジメチルスルホキシド)の添加が避けられない。2) 骨格形成に用いているピリジン-パラジウムの配位結合の化学的特性により、使用可能なバッファーに制限がかかる。 3) 長時間の実験において、ケージの留め金として用いている金属イオン(=パラジウムイオン)の遊離が避けられず、タンパク質によってはこれにより活性を失う可能性がある。これら短所も含めた特性を把握することは研究計画に織り込み済みであり、すべての問題に共通する問題は、分子骨格構造の留め金として働いているパラジウムイオンが生理条件と相性が悪いことに起因する。そこで2020年度は、ケージ分子のバリエーションを2-3種類まで増やす。幸いにも近年の超分子化学分野の発展により、骨格構造を構築する手法は数多く報告されている。研究計画調書記載の通り、目的サイズのケージ分子を作る手法は確立に近づいており、設計指針は立っている。ケージの設計指針としては、大きく3つの異なるアプローチがある。より具体的には、① 安定性が高くタンパク質機能との干渉しにくい金属イオン種を用いる。② 金属イオンを用いたケージの自己集合の後に、共有結合を用いたクリッピングを行う。③ 共有結合を用いた自己集合制御により共有結合を形成する。の3点である。これら3つの手法のメリットとデメリット、それから系の確立までのリードタイムを総合的に勘案し、注力する系を絞り込む。なお現状の優先度は、③>①>②の順である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度には、最終的には28,438円ほどの残額が生じた。しかし、これは計画予算に大して1%程度の誤差であり、概ね計画通りに使用していると言える。残高は、2020年度の試薬購入に当てる計画である。
|