研究課題
本研究では、動的な構造変化を伴う「誘導適合」で進む低分子とRNAの複合体形成過程を理論科学的に解き明かし、各種情報の分子設計へのフィードバックを狙った。当初計画に挙げていた中谷研究室が明らかにした複合体の形成経路の探索を試みた結果、これらの複合体の化学結合量論比がいずれも低分子2に対して核酸1であることから、低分子結合探索経路が非常に複雑になり、シミュレーション実験が現実的な時間単位では実行が難しい事が判明した。これにより、化学量論比が1:1である、低分子DANPとCバルジ複合体に焦点をあて、DANPの結合経路を探索することに修正し、千葉工業大学の河合教授との共同研究で得られたNMR構造を参考に、シトシンバルジの対面にあるDANPを、水素結合と直角方向に適当な距離で引き離した初期構造を発生し、その構造からの安定構造をシミュレーションにより求める手法により、研究を進めた。その結果、初期座標にシトシンバルジ構造側の構造変化を含めないモデル、すなわちDANPが結合した構造からDANPを引き抜いた構造を初期構造とした場合では、DANPとシトシンバルジとの距離、角度などの相対配置により、複合体構造に至る経路(活性化エネルギーのない経路)を大まかに推定することが可能であることを見出した。一方、初期構造においてシトシンバルジ構造がより安定な構造に変化している場合には、DANPをシトシンバルジ近傍に配置しても、複合体に至る経路には活性化障壁が存在することが明らかとなり、シトシンバルジ構造の変化が律速である可能性が示唆された。また、NMR構造から導いた複合体構造を量子化学計算するパラメーターの導出を行い、密度汎関数法のwb97xd/6-31+gdレベルでの複合体の構造最適化を、IEFPCM溶媒モデルを用いて水中で実施できることを確認した。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Molecular Therapy - Nucleic Acids
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Proceedings of the Japan Academy, Series B
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