本研究では、国際がん研究機関より、ベンゼンなどと同じ「G1: ヒトに対する発がん性がある」に分類されている発がん物質であるアルコールの摂取により過渡的に体内に生じる核酸付加体“N2-ethylidene-G (ethG)”の形成について知見を得ることを目的とした。ethGによる変異は、複製の際にグアニン(G)鋳型に対して本来取り込まれるべきシトシン(C)以外が取り込まれ遺伝情報が書き換えられることにより引き起こされ、発ガン、老化の原因となることが示唆されている。ethGは、アルコール代謝物であるアセトアルデヒドとGが反応することにより生じるが、不安定で寿命が短く、生理的条件のアルデヒド濃度における生成量などの詳細は不明であった。前年度までにethGの生成の観測に成功し、2021年度は過渡的に形成するethGの生成、解離過程のデータ解析法を検討するため、核酸アプタマーの1分子解析に取り組んだ。ATPアプタマーを2つに分裂したsplit ATPアプタマーの半分をガラス基板上に固定し、もう半分を蛍光標識した。split ATPアプタマーはATP非存在下でも複合体を形成するが、ATP存在下でより安定な複合体を形成する。PacBio社製の次世代シーケンサーRSII+を用いて、スイスチューリッヒ大学のイェンス・ソーベック博士の指導のもと、15万を超えるウェルのデータを同時測定した。様々なパータンの膨大な蛍光揺らぎデータの中から(1測定で60GB程度)、データを抽出し、解析する法を確立し、ATPの有無を、蛍光シグナルのゆらぎにより検出することに成功した。
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