研究課題
マクロファージによるファゴサイトーシス(食作用)を介した殺菌は重要な感染防御機構である。細菌を取り込んだマクロファージはその後、活性酸素と消化酵素を利用して細胞内で細菌を死滅させる。システインパースルフィド(Cys-SSH)は、システインのチオール基(Cys-SH)に過剰なイオウ原子が付加しただけのシンプルな構造にもかかわらず、システインに比べて著しく抗酸化力が高まっており活性イオウと呼ぶ作用を有する。これまでの検討から、マクロファージを活性イオウドナーで処理すると、細胞内の菌数が顕著に減少することを発見した(未発表データ)。本研究では、活性イオウによって増強される細胞内殺菌機構の解明を目指す。本年度はヒト単球由来THP-1細胞をホルボールエステルでマクロファージに分化させた細胞を用いて、昨年度解析を実施しなかったレジオネラ菌、黄色ブドウ球菌に対する殺菌作用が活性イオウで増強されるかを検討した。その結果、グラム陰性細菌であるレジオネラ菌に対する殺菌作用が活性イオウドナー処理によって有意に増強された。一方、黄色ブドウ球菌に対してはそのような殺菌作用の増強が見られなかった。活性イオウによるマクロファージの殺菌作用は、NADPHオキシダーゼ阻害剤による影響は受けなかった。また、硫化水素ドナーには殺菌作用の増強は見られなかった。同様の結果は、好中球様細胞にも見られ、食細胞が共通して活性イオウによって、細胞内殺菌作用が強められることがわかった。活性イオウは、細菌感染によって誘導される炎症性サイトカインの産生や、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を抑制していた。これらの結果より、活性イオウによる殺菌作用の増強は、これまでに知られている食細胞の殺菌経路とは異なる機構で起こっていることが示唆された。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件)
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