研究課題/領域番号 |
19K22259
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
井原 敏博 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (40253489)
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研究分担者 |
勝田 陽介 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 助教 (50632460)
北村 裕介 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 助教 (80433019)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | オメガ構造 / 遺伝子発現制御 / mRNA / 光制御 / G4構造誘導 / ステープル核酸 / 核酸医薬 |
研究実績の概要 |
DNAやRNAのグローバルな構造を操ってその塩基配列を可逆的にスプライシング(編集)する。具体的には標的とする生理活性分子、及び 内在性、または細胞導入した短いDNAやmiRNA等を鋳型にして a)修飾DNAや b)mRNAの配列の一部をつまみ出し、一次構造においては互いに離れた二箇所を繋ぎ留めてΩ型構造を形成させる。a)化学修飾DNAにおいては、光や金属イオンなどの刺激によりΩ構造を固定化し、特定のmRNAに相補的な新しい塩基配列を与えるよう配列設計する。アンチセンスの作用機序を利用して当該遺伝子をノックダウンする。b)RNAは化学修飾せず、天然のmRNAにΩ構造を誘導し、当該遺伝子の発現を制御したい。 グアニンの連続配列は非常に安定なグアニン4重鎖(G4)構造を形成する。この配列を分断したスプリットG4配列にΩ構造を誘導しグアニン4重鎖(G4)構造を形成させることで当該遺伝子の発現制御が可能である。具体的には、短鎖核酸(ステープル核酸)を用いてmRNAの5'UTRにG4構造を誘起し、リボソームの進行を止めることで遺伝子を制御したい。in vitroの系においては様々な人工遺伝子について本原理の有効性を確認することができた。本原理には一般性があり、与えられた遺伝子に対してステープル核酸を設計することもできるし(遺伝子発現制御、すなわち核酸医薬の必要条件)、逆に特定のステープル核酸に対してスプリットG4配列を有するmRNAを設計する(核酸検出、特にmiRNAの高感度検出のための必要条件)ことも可能であった。さらに、天然の遺伝子に対しても、in vitro、およびin cellにおいて遺伝子発現を抑制できることを示すことができた。さらに、本学医学部との共同研究によりTRPC6を高発現している高血圧の病態マウスを使って遺伝子制御にも取り組んでおり期待した成果をあげつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で提案しているΩ型構造誘導を利用した遺伝子発現制御に関しては、動作原理の一般性を示すことができた。その有効性を、in vitro → in cell → in vivoの流れで着実に検証することに成功している。動物実験は、当研究室だけではすぐに実施することが難しい。別の研究において共同研究を実施していた本学医学部の研究者がTRPC6の病態マウスを扱っていたので、すぐに共同研究を開始することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は以下の2つの項目に関して重点的に研究を進める。 動作原理に関する基礎研究: ステープル核酸によりmRNAの5'UTRにΩ構造を形成させ、互いに離れていたグアニン連続配列を近づけ、G4構造を誘起する。遺伝子制御技術以前に、核酸科学、特に核酸構造の基礎研究の立場からこの現象はたいへん興味深い。介在配列(ループ)の長さとG4構造の熱安定性の関係、G4構造形成後にステープル核酸が解離してもG4構造は維持されるのか、もし維持されるなら少量のステープル核酸をターンオーバーして多くのG4構造を触媒的に誘導することは可能なのか、などの興味深い課題に取り組みたい。 核酸医薬としての応用研究: 核酸医薬としての応用研究を本格的に推進するために、病態マウスに修飾核酸を投与してその効果を確認する。修飾核酸としては浅沼氏(名大工)の開発したL-aTNA、SNAや、小比賀氏(阪大薬)の開発したBNAを使用する予定である。L-aTNAに関しては、既に必要な塩基配列の幾つかのステープルL-aTNAを提供していただき、TRPC6の高発現マウスに対して投与しその活性の確認を行う予定で準備を進めている。また、神経性疾患の治療に関して、東京医科歯科大学の横田氏との共同研究も正式にスタートした。
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