研究実績の概要 |
糖質は,食品用途等での幅広い利活用が期待される.利活用には,まずは,個々の糖質の合成が必要である.本研究では,多様な加水分解酵素を加リン酸分解酵素に変換するための分子基盤の理解と技術開発を行う. 基質オリゴ糖に対して,加リン酸分解とともに糖転移および加水分解も触媒する対象酵素BLMPについて,3反応の特異性に寄与する残基の同定を進めた.一定条件下(50 mMリン酸)で3反応の速度を求めた.速度測定には各反応の生成物をそれぞれ定量した.速度の合計値に対する相対速度(速度比)で評価を行った.野生型酵素は加リン酸分解42%,糖転移58%,水解はほとんど見られなかった.リン酸結合と予想されるAsn, Tyr, Asn残基に変異を導入し,計18種の変異体を作製し,精製酵素により同様の測定を行った.18種の変異体の速度比は大きく変動し,加リン酸分解4-93%,糖転移0-76%,水解0-87%の範囲にあった.加リン酸分解の速度比は多くの変異体で野生型と同程度に維持される傾向が強かったが,3番目のAsn残基の変異体の多くでは加リン酸分解の低下,転移の低下,一方加水分解の増加が顕著であった.従って,この残基が加リン酸分解に大きく寄与すると考えられた.この残基は触媒残基に近く,関連酵素において構造位置の保存性は高い.従って,関連する加水分解酵素等に加リン酸分解活性を付与し,加リン酸分解酵素の多様化には,当該残基が候補となる. 新規酵素の探索・発見も行った.Paenibacillus由来の加リン酸分解酵素様タンパク質を組換え酵素を用いて解析した.Glc1Pと各種糖質を基質とした加リン酸分解の逆反応により,本酵素はsolabiose phosphorylaseと同定された.本酵素を用いてソラビオースD-Glcp-β1-3-D-Galをショ糖と乳糖より高収率(98%)で合成した.
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