研究課題
テトロドトキシン(TTX)はフグ毒として知られるが、海洋では他にカニ、タコなど、また陸上ではイモリ、カエルに存在する。起源生物は細菌としているが、どこで膨大なTTXが生産されるのか、なぜ、広範な生物が毒化するのか、わかっていない。また、生合成遺伝子も未解明である。本研究は、東日本の湾で、浮遊物以外海底から直接アクセスするものがない、海水中に吊して養殖されたホタテガイを分析し、TTXが検出されるかどうかを調べた。ホタテガイは、4月から12月まで定期的にサンプリングし、中腸腺から酸性水溶液で加熱抽出して、前処理後、麻痺性貝毒群(サキシトキシン群)とTTXをLC/MSで分析した。TTXは、養殖ホタテガイから極微量検出され、高分解能LC-MS/MSで完全に同定した。しかし、麻痺性貝毒は、中腸腺中で最高値182 micro mol/ kgであるが、TTXは最高値が421 nmol/ kgであり、TTXは麻痺性貝毒に比較して、非常に低濃度であることが示された。TTXの可食部中の濃度はEU食品安全委員会が定めた二枚貝中の可食部のTTXの基準値以下であった。最近、ヨーロッパやニュージーランドで、二枚貝中からTTXが検出された例は報告されているが、日本では、二枚貝からLC-MSでTTXを同定した例はなく、今回が初めてである。ホタテガイ中腸腺において、麻痺性貝毒の毒量のピークは5月下旬から6月下旬であったが、TTXは8月下旬から10月下旬にかけてピークを示した。ホタテガイの麻痺性貝毒の毒量のピークは、麻痺性貝毒生産渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseの海水中の細胞密度とパラレルな関係が示されたが、ホタテガイのTTX濃度とは、関係が示されなかった。また、付近の海底土壌も継続的にサンプリングし、TTXを分析する方法を確立した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、浮遊物以外海底から直接アクセスする生物がない、海水中に吊して養殖されたホタテガイを分析し、TTXが検出されるかどうかを調べた。ホタテガイは、4月から12月まで定期的にサンプリングし、中腸腺から酸性水溶液で加熱抽出して、前処理後、麻痺性貝毒群(サキシトキシン群)とTTXをLC/MSで分析した。TTXは、養殖ホタテガイから極微量検出され、高分解能LC-MS/MSで完全に同定した。TTXの可食部中の濃度はEU食品安全委員会が定めた二枚貝中の可食部のTTXの基準値以下であることを明らかにした。このことは、食品衛生上重要な知見であると思われる。日本では、二枚貝からLC-MSでTTXを同定した例はなく、今回が初めてである。ホタテガイ中腸腺において、麻痺性貝毒の毒量のピークは5月下旬から6月下旬であったが、TTXは8月下旬から10月下旬にかけてピークを示した。ホタテガイの麻痺性貝毒の毒量のピークは、麻痺性貝毒生産渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseの細胞密度とパラレルな関係が示されたが、ホタテガイのTTX濃度とは、関係が示されなかった。これらの成果は、論文にまとめて、Marine Drugsに報告した。また、付近の海底土壌や海水等も継続的にサンプリングし、サンプルを蓄積し、TTXを分析するための前処理方法やLCMS条件を検討し、確立した。このことから、順調に研究が進捗していると考えている。
1. 海底から離れた位置で養殖されている二枚貝からTTXをLC-MS/MSで完全にTTXを同定したため、これまで報告している推定TTX生合成中間体も存在するかどうか、分析する。2. その二枚貝のTTX含量が増える時期の海水や、その中のプランクトン類および細菌をフィルターで集めて抽出し、TTXの有無を調べる。また、検鏡して優先プランクトンを識別する。3. TTXが検出される二枚貝が養殖されている地点を中心に、周囲の海底堆積物(表層の土壌)を採集し、研究室で抽出してTTXの分析を蛍光HPLCとLC-MSで行う。4. TTXが海水中のプランクトンや土壌から検出された場合は、さらに粒子径の分画を試みる。5. TTXが検出された画分からDNAを抽出し、アミジノ転移酵素を指標にTTX生合成遺伝子をメタゲノム手法で探索する。
本年度、海底土壌サンプルと海水中のプランクトンの採集を委託業者に委託する予定であったが、天候悪化などで委託できなかった。しかし、共同研究者の協力を得て、海底土壌サンプル、養殖ホタテガイ、海水中のプランクトンのサンプルを得ることができたため、研究に支障は生じなかった。次年度には、委託も行いたく、次年度の使用額を海洋におけるサンプリングの依託費や、サンプル処理に伴う物品、LCMS分析に関わる消耗品、修理費などに使用する計画である。
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すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 2件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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