研究課題
テトロドトキシン(TTX)は海洋ではフグ、カニ、タコなど、また陸上ではイモリ、カエルに存在する。起源生物は細菌としているが、どこでTTXが生産され、なぜ広範な生物が毒化するのかわかっていない。また、生合成遺伝子も未解明である。昨年度、東日本の湾で、浮遊物以外海底から直接アクセスするものがない、海水中に吊して養殖されたホタテガイを1年間継続的に分析し、TTXは8月下旬から10月下旬にかけてピークを示すことを明らかにした。一方、ホタテガイの麻痺性貝毒の毒量のピークは、麻痺性貝毒生産渦鞭毛藻Alexandrium catenella (Group I)(旧A. tamarense)の細胞密度とパラレルな関係が示され、ホタテガイのTTX濃度とは、関係が示されなかった。また、ホタテガイ中のTTXは麻痺性貝毒に比べて極微量であることも明らかにした。そこで、そのパターンが繰り返されるかどうか確認するために、本年度も同ホタテガイについて、同様に1年間定期的に採集して分析した。その結果、前年度とほぼ同じ時期に微量のTTXを含有するようになり、その時期が終わるとTTXの濃度は減少した。この時期は前年度同様に、ホタテガイの麻痺性貝毒の蓄積の主原因となるA. catenella (Group I) (旧A. tamarense)の時期とは明らかにずれていた。そのため、ホタテガイのTTXは、麻痺性貝毒とは別の要因により、蓄積される可能性があることが再度示された。この結果は、児玉らの結果(Toxicon 1996)と異なっていた。また、付近の海底土壌とプランクトンを複数回採集し、顕微鏡観察、および前処理後にTTXのLC/MS分析を行った。さらに別の地点の海底付近の生物の採集も複数回行い、顕微鏡観察、TTX の分析、および一部のサンプルのDNAを抽出と分析を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、昨年度のホタテガイに引き続き、定点で海水中に吊して養殖されたホタテガイを採集し、TTXが検出されるかどうかを調べた。1月から12月まで定期的にサンプリングし、中腸腺から前処理後、麻痺性貝毒群(サキシトキシン群)とTTXをLC/MSで分析した。TTXは、前年度とほぼ同じ時期に微量に検出された。麻痺性貝毒の蓄積の主原因となるA. catenella (Group I) (旧A. tamarense)の時期とは、明らかにずれていたため、別の要因があることを再度確認できた。また、付近の海底土壌とプランクトンを複数回採集し、顕微鏡観察と、前処理後にTTXのLC/MS分析を行った。さらに別の地点の海底付近の生物の採集も複数回行い、一部サンプルからDNAを抽出して分析した。このようにサンプルとデータは蓄積してきているので、順調に研究が進捗していると考えている。
1. さらに、すでに調査した2年間と同じ地点で、さらに定期的にサンプリングされた養殖されたホタテガイについても麻痺性貝毒とTTXを分析し、3年分を比較して繰り返し同じパターンが示されるかどうかを調べる。この結果から、さらにTTXによる毒化時期を確認することができると思われる。2. ホタテガイのTTX含量が増える時期の海水や、プランクトン類、細菌をフィルターで集め、検鏡して優先プランクトン類を識別する。また、その優先プランクトンを分離して培養する。分析に十分な藻体を得てから、TTX類をLC/MSで分析する。また、その優先種で、すでに確立した培養株があれば、入手してそれも培養後にTTXの分析を行う。3. これまで採集した海底土壌や海底付近の生物の種の同定も含めてDNA分析を進める。
新型コロナウイルス感染症の流行のため、サンプリングのために移動して旅費を使用することや、サンプリングを委託することができなかったため次年度使用額が生じた。次年度は、サンプリングを委託することが可能と思われるので、そのための支出として使用する計画である。
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