研究課題/領域番号 |
19K22272
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
千葉 一裕 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20227325)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | ペプチド / 生物活性 / コンビナトリアルケミストリー / 化学合成 |
研究実績の概要 |
ペプチド等の「中分子」が次世代を担う生物活性物質候補群として注目されている.このような背景の中,中分子をいかにして効率的かつ網羅的に得ることができるかが重要な課題になっている.中分子は通常,天然高分子の断片またはその一部の類縁体としての位置づけから,ペプチド,核酸,糖鎖,またはその複合体が基本構成要素となる.その中でもペプチドは基本的には20種類の天然アミノ酸が直鎖状に結合した物質であり,タンパク質を構成する一部の分子断片に相当する.生体のタンパク質やその核酸,糖質などとの複合体の分子間相互作用は,種々のシグナル伝達等,活性の発現に直接関与し,これら「高分子内の活性発現部位」に相当するペプチドの分子構造を知り,実際にその分子を化学プロセスによって得ることは,医薬品候補物質や機能性分子の獲得に直接繋がる.本研究は,申請者がこれまでの研究で開発した逆ミセル反応法を応用することによって,10兆種類のペプチド等モル混合物を迅速かつ効率的に得るための新しい化学プロセスを確立することを目的とする.逆ミセルを形成する可溶性タグに対しアミノ酸をランダムに10回反応させることにより,1容器内に10merのペプチド全理論数である10兆種類を定量的に得た.このときアミノ酸の種類によって反応性がそれぞれ異なるため,20種類のアミノ酸を混合物として反応させることなく,一段階毎に20種類それぞれのアミノ酸を活性化した容器に可溶性タグ溶液を当量分注し個別に反応を行った.20個の反応容器においてそれぞれの反応完結を確認後,過剰のアミノ酸や試薬の洗浄し,20容器の溶液をすべて一つの容器に混合した.この方法により,最適化はされていないが,目的とする合成プロセスを実施することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度については当初の計画どおり、10merのペプチド混合物を連続液相反応による化学合成を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で実施している操作はすべて液相反応として実施できるためスケールアップは容易であるが,反応に必要となる溶媒は直径10ナノメートル程度の逆ミセルの中心分部に局在する形になり,このことによって使用する試薬量や溶媒量を最小化することができると考えている.従って,反応点は逆ミセルの中心部に凝縮しているため,反応速度は高く,その操作効率は高いことが期待できる.また,投入するアミノ酸の種類を天然型に限らず非天然型アミノ酸等に変えることによって,任意の分子ユニットを自在に導入できる方法として開発を進めることを計画している. また,これらの方法を導入しても,製造されたペプチドの配列によっては不溶化,分子間相互作用による高粘度化などが発生することが予想される.すなわちペプチドの難物性化は通常,立体障害の少ない連続するアミド結合における分子内および分子内水素結合によって発生する.このペプチド合成に必ず付随する物性面での課題については,これまでに開発したN-アルキル化タグの導入により解決する.これはペプチド鎖伸長反応において反応毎にアミノ基にN-アルキル化タグを導入することによって,この作用を抑制するものである.これまでの予備実験から,N-アルキル化タグは合成中間体の物性を著しく改善するだけでなく,ペプチド分子全体の構造を柔軟化させるため分子内環化反応の進行を強く進めることも可能となることを確認している.従って,当該方法で得られる6merから10merのペプチドについて,そのほぼ全てを環状ペプチドとして得ることが可能になるものと期待される.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスによる感染拡大の影響で、予定していた学会発表等による出張は次年度以降に実施することになったほか、試薬等の購入が困難になったものがあり、これらについて次年度の購入とした。
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