研究課題/領域番号 |
19K22274
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
原 正和 静岡大学, グリーン科学技術研究所, 教授 (10293614)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 超低温保存 / 蛋白質保護 / 天然変性蛋白質 / デハイドリン |
研究実績の概要 |
植物種子の超低温保存に関与する特異な天然変性タンパク質(デハイドリン)の機能を研究する過程で、タンパク質の凍結失活を極めて低濃度で阻止する新活性ドメイン(NK3)を見出した。本研究は、医薬品特に抗体製剤の新しい保存技術の構築に向け、NK3に関する基盤的知見を得ることを目的とする。昨年度、NK3変異ライブラリーを構築し、低温感受性モデル酵素(乳酸脱水素酵素LDH)の凍結保護活性を指標に、NK3配列―活性相関を見出すことができた。本年度は、計画に則り、抗体製剤への応用に向けた基礎データの取得を行った。抗体のモデルとしてウシγ-グロブリン(γG)を用いた。抗体製剤は、極端な温度(凍結または高温)や振動によって凝集するとされている。抗体の凝集は、医療用ニードルやチューブの詰まり、抗原性の向上など大きな問題を引き起こす。しかし、一般的に、どのような保管条件で抗体が凝集するかについては十分理解されていない。そこで、γGに pHを変化させながら(3.0~8.0)凍結融解処理と振動処理を与え、凝集をモニターした。すると、低pHでは凍結融解による凝集は起こらなかったが、中~高pHにおいて凍結融解凝集が起きた。特にpH6.0において凝集が最大となった。振動もまた、中~高pHにおいて凝集を誘発し、pH6.0~7.0で最大となった。ここで、γG の凍結融解凝集をpH5.0で行うことにした。試みに、本実験系に対しデハイドリンの保存配列Kセグメントを作用させたところ、γGの凍結凝集を効果的に抑制することが判明した。今後、NK3について試験する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、本研究の中心である抗体製剤への応用に向けた実験を開始した。抗体のモデルとしてウシγ-グロブリン(γG)を使用した。これまで、抗体製剤の凝集条件について情報は少なかったが、ここで詳細な条件検討を行い、最適な凝集条件を見出すことができた。具体的には、pHを変化させつつ、凍結融解処理、振動処理を行ったときのγGの凝集をモニターし、弱酸性における凍結融解が最も凝集を誘導することを見出した。さらに、デハイドリンの保存配列であるKセグメントのγG凍結凝集抑制活性も確認した。これらの結果は、抗体製剤の安定化をゴールとする本研究において重要な成果である。よって上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、NK3の低温感受性酵素に対する凍結失活抑制作用メカニズムが示された。今年度は、抗体製剤のモデルであるウシγ-グロブリン(γG)の凝集条件を調査し、生理的pHにおいて凍結あるいは振動がγGの凝集を促進することを見出した。凍結と振動は、抗体製剤の運搬と保管において頻繁に起こる物理的ストレスであり、今回の成果は、それらのγGへの影響が定量的に評価できるようになったことを意味する。次年度はγGの凝集系へNK3を作用させる。得られたデータを取りまとめ、実際の抗体製剤への応用に向けた開発プロセス案を策定する。
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