研究実績の概要 |
植物種子には特異な天然変性タンパク質(デハイドリン)が存在し、種子の低温保存性に関与することが示されている。予備試験によって、デハイドリンの新規ドメインNK3(近年Strimbeck博士が提唱するFセグメント)が凍結失活モデル酵素(乳酸脱水素酵素)を効果的に保護することが確認された。そこで本研究は、抗体製剤の新しい保存技術の構築に向け、1)タンパク質の凍結失活を低濃度で阻止するNK3ドメインの作用機構を解明し、2)新たな超低温保護活性ペプチドを探索し、3)NK3による抗体の超低温保護活性を検証した。 1)については初年度の報告書で述べた。2)については、初年度から昨年度にかけて研究が進展し、デハイドリンの凍結保護活性を上回る活性を示す天然変性タンパク質をダイコンから単離することに成功した。このタンパク質は過去に液胞性カルシウム結合タンパク質として同定されていたものであるが、今回初めて強い凍結保護作用が見出された。さらに本タンパク質の精製効率を、過去の精製法と比較して約4,000倍に向上させた。3)に関しては、昨年度開発した抗体モデル凍結凝集試験系を用い、NK3の抑制活性を確認した。この抑制活性は極めて高く、一般的な保護物質(糖アルコール、ツビッターイオン型適合溶質、アミノ酸、ポリオール)と比べて、質量パーセント濃度にして百倍から数千倍の活性を示した。Kセグメントの抗体凍結凝集抑制活性を決定し、NK3の活性と比較したところ、NK3の活性はKセグメントの約1.2倍であった。Kセグメントの抗体凍結凝集抑制活性に関する作用メカニズムを精査したところ、当研究グループが提唱する一過的疎水性相互作用機構に概ね合致することが判明した。
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