研究課題/領域番号 |
19K22275
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
柴田 秀樹 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30314470)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
キーワード | エンドソーム / 神経変性疾患 / ESCRT / アネキシン / カルシウム |
研究実績の概要 |
パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症などは加齢に伴う神経変性疾患であり、人口高齢化社会を迎えそれらの患者数が増加している。本研究は、神経変性疾患における異常凝集体の形成、増幅、分泌および分解に着目し発症メカニズムの解明を進めることで、予防および病態進行の抑制につながる創薬シーズの探索系の確立を目指している。研究代表者らは、筋萎縮性側索硬化症の発症に関わる遺伝子変異をアネキシンA11遺伝子に同定し報告している。アネキシンA11とその相互作用蛋白質が限界膜が損傷したエンドソーム系オルガネラに動員されていること、および神経変性疾患の発症に関わる遺伝子変異には、エンドソーム経路の調節蛋白質をコードする遺伝子が複数含まれていることから、異常凝集体の形成と、それに反する分解の場として後期エンドソームとリソソームに注目し、今年度は以下の解析を進めた。 (1)筋萎縮性側索硬化症の発症原因として報告したアネキシンA11変異体およびその野生型を発現誘導可能な培養細胞を作出した。リソソーム膜の損傷誘導試薬LLOMeを添加したところ、野生型および変異型アネキシンA11は同様に損傷を受けたリソソームに動員された。 (2)アネキシンA11変異体および発現抑制が、損傷リソソーム膜の修復を担うESCRT構成蛋白質の損傷リソソーム膜への動員に及ぼす影響を解析し、大きな影響はないことが判明した。 (3)アネキシンA11とアネキシンA7の発現抑制により、リソソーム損傷後にひきおこされるオートファジー(リソファジー)が促進される傾向が見られた。 これらの結果は、リソソームを含めたエンドソーム系オルガネラの恒常性維持にアネキシンA11が関与していることを示しており、今後、リソソーム損傷誘導試薬を異常凝集体に置き換えた実験を計画している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筋萎縮性側索硬化症に関わる複数のアネキシンA11変異体を発現誘導可能な培養神経細胞株の樹立に成功した。今後、神経変性疾患の発症に関連するその他の遺伝子変異からエンドソーム機能の調節に関連する遺伝子についても同様の手法を用いて解析可能である。エンドソーム系オルガネラの損傷誘導剤として汎用されるLLOMeを用いて検討を進めた。アネキシンA11に関していくつかの結果が得られ研究は進展しているが、LLOMeはカテプシン陽性のリソソーム膜を特異的に穿孔する。今後、異常凝集体の組換え蛋白質による影響とその増幅・伝搬を検討する予定であるが、その比較となる知見が得られていることから、おおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
アネキシンA11と同様に、神経変性疾患の発症に関わり遺伝子変異の中からエンドソーム系オルガネラの調節に関わる可能性のある遺伝子産物を複数選抜し、それらの野生型と変異体を発現する細胞株の樹立を進める。また、パーキンソン病および筋萎縮性側索硬化症の特異的病変として観察される異常凝集体を構成するαシヌクレインとTDP-43を組換え体として調製する。可溶性の組換え体と試験管内で凝集を誘導した組換え体を、神経変性疾患の発症に関連する遺伝子変異体を発現する細胞株に添加し、凝集体の増幅、分解、分泌および細胞の生存に対する影響を観察する。また、LLOMe添加による影響も併せて検討し、リソソームの損傷とその修復活性と凝集体の動態の関連について知見を得る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
消耗品をキャンペーン価格で購入できたため、次年度使用額が生じた。次年度の消耗品として使用する計画である。
|