ヒト乳児糞便の16Sメタゲノム解析およびメタボローム解析を行ったところ、芳香族乳酸の一つであるインドリル乳酸の濃度がビフィズス菌の占有率と高い正相関を有することが明らかとなった。そこで、種々のビフィズス菌種を用いてその芳香族乳酸産生能を調査したところ、いわゆる乳児型ビフィズス菌種が芳香族乳酸を著量産生することが明らかとなった。ゲノム配列を比較したところ、産生菌においては乳酸デヒドロゲナーゼに低い相同性を有するORFが保存されていた。Bifidobacterium longumにおいて当該遺伝子の破壊株を作製して培養したところ、乳酸の産生量には変化が見られなかったが、芳香族乳酸産生が著しく減少していた。次に本ORFを組換え酵素として発現精製し、その諸性質を検討した。その結果、本酵素は芳香族ピルビン酸、中でもインドールピルビン酸に高い親和性を示すこと、またリン酸がV型アロステリック因子として機能することが明らかとなった。インドール乳酸は、AhRおよびHCA3のアゴニストであり、腸管バリアや腸管免疫を制御していることが知られている。母乳オリゴ糖資化能を有する乳児型ビフィズス菌がインドール乳酸の産生能を有することは、ヒトとビフィズス菌の共生・共進化を考える上で秘境に興味深い。 また研究の過程で、酪酸産生能を有する一部のFirmicutes門細菌に母乳オリゴ糖分解酵素ホモログがあることを見出し、その酵素解析を行った。これらの細菌は、植物オリゴ糖の資化能も有しており、このことは、離乳期においてFirmicutes門細菌が増殖して酪酸が増加してくる現象との関連性を示唆するものである。
|