生体内ではコラーゲンをはじめとする細胞外基質が動物細胞を取り囲んでいる。この細胞外基質の種類や濃度、硬さなどの細胞外環境が、炎症や脂肪細胞分化、がん細胞遊走などの細胞機能を調節している。細胞外環境の感知と情報伝達には、細胞と細胞外基質との接着部位に形成される巨大複合体接着斑が重要であり、これまでに、接着斑局在タンパク質(細胞外基質受容体やキナーゼ)の重要性が示され、接着斑タンパク質を抑制することでがんや炎症性疾患、硬化症の治療が試みられている。一方で接着斑のもう一つの主要な構成因子である接着斑細胞膜はこれまでほぼ完全に見過ごされてきた。最近、私達は細胞外基質の硬さにより接着斑タンパク質が脂質ラフト膜(界面活性剤不溶性膜)に増加することを示し、そのことが細胞外基質の硬さによる細胞遊走の調節に必要なことを見出した。そのことから、接着斑の機能には接着斑細胞膜脂質が重要であると考え、その検証を試みた。 接着斑細胞膜を改変する実験系を構築するために、脂質修飾酵素を接着斑に局在化させ、脂質を局所的に変化させてようとしている。本年度は、局所的な脂質の変化を調べるために、接着斑に濃縮することがすでに報告されているPIP2についてGFP-PHプローブを用いてその可視化と定量を試みた。しかし、発現量や観察条件を様々に変化させたが、用いた細胞ではPIP2の接着斑への濃縮は観察できず、本実験系では接着斑脂質の定量が困難であることが判明した。また、昨年度に引き続き、細胞膜から抽出した脂質と接着斑画分に含まれる細胞膜から抽出した脂質とを比較する実験をおこなった。質量分析法により解析したところ、接着斑画分ではホスファチジルコリンの持つアシル鎖が他画分に比べて長さと不飽和度の割合が異なる傾向をもつことが分かった。
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