超高齢社会を迎えた我が国において、健康寿命の延伸の実現は重要課題の一つである。寿命制御機構の解明は、老化に伴うがんや代謝疾患、神経変性疾患など加齢性疾患の発症メカニズムの解明のみならず、それら疾患の予防・遅延を介した健康寿命の延伸に貢献することが期待される。最近の研究から、栄養状態、腸内細菌叢などの環境因子が原因で生じた特定の代謝産物が、寿命制御のシグナル分子として機能する例が見出されてきた。従って、代謝機構を標的とした研究は、加齢性疾患の予防や治療による健康長寿の実現に極めて重要である。本研究では、単細胞モデル・酵母と多細胞モデルの線虫を用いて、寿命延長に資する代謝産物のスクリーニングを実施し、その作用メカニズムを明らかにすることを目的とした。これまでに、環境応答、分化、老化、寿命、がん化、肥満など様々な生命現象に対して共通に変動する代謝産物が200種類近く見いだされている。そこで、これらの代謝産物を用いて、酵母と線虫の寿命延長に資すると予想される代謝産物を網羅的にスクリーニングした。その結果、線虫の長寿遺伝子のレポーター活性を増加させたものは80種類存在した。続いて、30種類の代謝産物は酵母の寿命制御に関与することが予想された。最終年度には、これらの代謝産物全てについて酵母の細胞寿命を計測した。その結果、酵母の細胞寿命を延長した代謝産物を14種類同定した。これらについて順次寿命延長効果を調べている。また、先行研究で取得されていたSAHによる寿命延長メカニズムの解明を行った。その結果、SAHは酵母と線虫の細胞内におけるメチオニンの量を顕著に減少し、メチオニン制限による健康効果の多くが得られることを明らかにした。
|