鳥類であるニワトリのゲノム編集は,標的となる1細胞期受精卵の取扱いが困難なため,他の生物種に比べて遅れていた。実施者は,標的細胞にPGCを選択し,この培養方法を新たに開発した。その結果,ゲノム編集による遺伝子ノッ クアウトニワトリの作出に成功した。しかし,ゲノム編集のもう一つの利点であるノックイン技術は,従来の相同遺伝子組換えでは低効率のため成功例が少ない。そこで本研究では,広島大学で開発された高効率ノックイン法であるPITCh法を適用し,鶏卵中に有用タンパク質を効率よく蓄積させる手法を構築することを目的に研究を行った。最終年度までに,以下の成果を得た。1)オボアルブミン分泌培養細胞を用いて,N末側ノックイン細胞とC末側ノックイン細胞の計4種の細胞株を樹立し,有用タンパク質の分泌量を測定したところ,ある接合配列でN末側ノックインした細胞株で有用タンパク質の発現量が最大になることがわかった。2)この発現系を利用して,ニワトリPGCへのノックインを行い,ノックインPGCを樹立した。3)新たにオボムコイドノックアウト細胞株を樹立し,オボムコイド転写翻訳系へのノックインシステムを完成させた。こちらはPGCの段階で,両アレルへのノックインが可能で,片アレルのオボアルブミン系よりも高生産も期待できる結果であった。4)PGCへのゲノム編集ツールの導入方法において,高効率な手法を開発した。(令和3年度実績)5)オボムコイドノックアウトPGCに対して有用タンパク質遺伝子ノックインPGCを作出した。これをニワトリの初期胚へ移植し,生殖細胞キメラニワトリを作出した。(令和3年度実績)現在,生殖細胞キメラニワトリの性成熟を待つとともに,上記の評価系培養細胞について特許出願が完了した。
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