研究課題/領域番号 |
19K22288
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中山 二郎 九州大学, 農学研究院, 教授 (40217930)
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研究分担者 |
田中 芳彦 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (00398083)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | クオラムセンシング / クオルモン / ウェルシュ菌 / 補体 / 環状ペプチド |
研究実績の概要 |
「クォルモン」とは単細胞生物である微生物が細胞間のコミュニケーション“クオラムセンシング”に用いるシグナル分子のことで、これにより菌密度依存的に特定の遺伝子の発現を同調させ、同種菌間の集団行動を統制している。グラム陽性菌では、これらの環状ペプチド分子を用い ることで、種特異的なクオラムセンシングを自在に展開している。本研究では、腸内ヒト共生菌のクオルモンペプチドが、本来の同種菌間のコ ミュニケーションシグナルとしての機能に加えて、菌体表層成分あるいは補体分子と反応し、補体からの攻撃を回避している可能性や、宿主の 種々受容体と相互作用してホルモン様の作用を示す可能性を検証する。共生菌にとっては宿主とのクロストークは同種菌間のコミュニケーショ ンと同等に重要であり、そのためにクオルモン分子が宿主とのクロストークシグナルとして共進化を遂げた可能性は十分に考えられ、この細菌 の新しい共生戦略の発掘を目指している。本年度は、実際に、クオルモンペプチドが補体による攻撃から菌体死滅の回避に関与しているか否かを調べるために、クオルモンペプチドを生産できないClostridium perfringens TS230変異株と野生株の血清中での一時間後の生存率を比較した。その結果、野生株の生存率が11%であるのに対し、TS230株では1.6%に有意に減少していた。そのことより、クオルモンペプチドが実際に、補体の攻撃からの回避に働いていることが示唆された。今後は、マクロファージによる貪食について野生株とTS230株で比較する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
血清中でのウェルシュ菌の生存試験において、血清のロットにより補体力価が異なり、安定したデータが得られないことに気づくのに遅れた。そのため、安定したデータが得られるようになるまでに、かなりの時間を要してしまった。今後は、同じ血清ロットを多めに注文し、同じ力価の血清で一連の実験ができるようにする。
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今後の研究の推進方策 |
補体免疫系回避の可能性の検証の次なるステップとして、マクロファージによる貪食の検証を行う。クオルモンによりオプソニン化が阻害されたり、補体系が阻害されていれば、クオルモン(+)株にてマクロファージの貪食からの回避が観察されるはずである。そして、さらに分子レベルでの検証を行う。菌体が補体タンパク質でオプソニン化されるのに先回りして、クオルモンが細菌表層分子に反応するか否かを観察する。また、補体経路(古典経路、レクチン経路、副経路の3つのカスケード)が活性化されているか、ブロックされているかを分子レベルでモニタリングする。 これらの実験を、現在、研究を進めているウェルシュ菌Clostridium perfringensに加えて、日和見感染腸球菌Enterococcus faecalis、偽膜性大腸炎原因菌Clostridium difficile、そして腸内常在菌の酪酸菌Clostridium butyricumについても行っていき、このクオルモンによる補体反応攻撃の回避が腸内細菌の感染症菌や常在菌でどのように使い分けがなされているかも考察のためのデータを収集していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績報告書に記載のとおり、2019年度最初の実験項目であった、血清中での菌体の生存率を測定する実験において、補体の力価を安定して評価することが難航し、実験の進展に大きな後れを生じ、計画変更を行った。そして、一部、2019年度に行う予定にしていた実験ができなかったため約50万円の予算を繰り越した。それらの研究のうち特に2019年度中に行うことにしていたマクロファージ中による菌体の貪食の観察の実験も含めて、2020年度は繰越金の50万円も含めて実施していくことを計画している。
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