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2020 年度 実施状況報告書

生細胞内における抗がん剤の生物的全合成

研究課題

研究課題/領域番号 19K22291
研究機関静岡県立大学

研究代表者

渡辺 賢二  静岡県立大学, 薬学部, 教授 (50360938)

研究期間 (年度) 2019-06-28 – 2022-03-31
キーワード生合成遺伝子発現 / 天然物 / フマギリン / HeLa細胞 / レトロウイルスベクター / 抗腫瘍性抗生物質
研究実績の概要

合成生物学の分野では天然物合成遺伝子を利用して多くの研究が展開されており、その例として、酵母に天然物生合成酵素を異種発現させてカンナビノイドなど天然物を人為的に生合成した報告がある。これらの研究は、酵母に限らず高等生物の細胞においても有用天然物を生合成させることが技術的に可能であることを示唆している。そこで我々は、天然物生合成遺伝子をヒトの細胞内で発現させれば、体内で天然物を生合成して直接病気を治すという新たな天然物活用法を創造できると考えた。しかしながら、これまでに哺乳動物培養細胞において天然物生合成遺伝子を異種発現させた前例はない。そこで、本研究では哺乳動物培養細胞内で天然物の生合成が可能であるか検証した。
まず、宿主細胞は増殖が早く、遺伝子導入効率が高いヒト子宮頸癌由来細胞HeLaを選定した。また、細胞内で産生させる天然物は少数の遺伝子から生合成されるものを候補とし、我々はAspergillus fumigatusが産生するフマギロール前駆体に着目した。フマギロール前駆体は、シトクロムP450 であるFma-P450がβ-trans-bergamoteneを酸化することで生成される。そこで、レトロウイルスベクター用いてFma-P450をHeLa細胞内で発現させ、さらに基質であるβ-trans-bergamoteneを培養液中に添加してLC-MS分析を行った。その結果、培養液中にて5-hydroxy-fumagillolが検出された 。すなわち、HeLa細胞内で発現させたFma-P450によってβ-trans-bergamoteneが5-hydroxy-fumagillolへと変換され、培養液中に分泌されたと推測される。
この結果より、天然物生合成遺伝子を導入することで、哺乳動物細胞において天然物は生産可能であることが示された。哺乳動物細胞における天然物の生産及び、天然物生合成遺伝子の新たな活用法として期待されている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

天然物は強力な生物活性を示すが、標的以外の細胞にも作用してしまうケースが多い。そこで我々は、標的細胞でのみ天然物の効果を発揮させる新たな仕組みを考案した。すなわち、天然物生合成遺伝子を疾患細胞に遺伝子導入し、疾患細胞内で天然物を産生できれば、副作用なく直接疾患を治療することが可能となる。しかしながら、哺乳動物細胞において天然物生合成遺伝子を異種発現させた前例はない。そこで本研究では、哺乳動物細胞内で天然物の生合成が可能であるか検証した。細胞内で産生させる天然物として、Aspergillus fumigatusが産生するフマギロール前駆体に着目した。フマギロール前駆体は、シトクロムP450 であるFma-P450がβ-trans-bergamotene (1)を酸化することで生成される (Watanabe, K. et al., J. Am. Chem. Soc., 2014)。そこで、ウイルスベクター用いてFma-P450をHeLa細胞に遺伝子導入し、1を培養液に添加してLC-MS分析を行った。その結果、培養液中にてdemethoxyfumagillol (2)が検出された。すなわち、HeLa細胞内で発現させたFma-P450によって1が2へと変換され、培養液中に分泌されたと推測される。この結果より、天然物生合成遺伝子を導入することで、哺乳動物細胞において天然物は生産可能であることが明らかとなった。
この結果より、天然物生合成遺伝子を導入することで、哺乳動物細胞において天然物は生産可能であることが示された。

今後の研究の推進方策

天然物生合成遺伝子の発現系構築
天然物合成遺伝子をアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターやCRISPR/Cas9を用いて培養細胞で安定発現させる。AAVベクターは全細胞種で遺伝子を高効率で導入することができ、また非病原性であるためP1レベルの遺伝子組み換え実験施設で取り扱いできる利点がある。培養細胞内でフマギロール前駆体を生合成させる場合は、まずFma-TCを細胞に遺伝子導入して、RT-PCRやウエスタンブロットなどで遺伝子の発現効率を確かめる。遺伝子が発現しない場合は、導入遺伝子のコドンの最適化などを行う。Fma-TCの発現が確認できれば、全培養物中から化合物を抽出し、質量分析やNMRなどでβ-トランスベルガモテンが細胞内で産生されるか否かを調べる。細胞内でβ-トランスベルガモテンを産生することに成功すれば、次にFma-P450を遺伝子導入してフマギロール前駆体の産生効率を調べると共に、増殖速度やアポトーシスなどを指標に細胞死誘導効率を評価する。

ベクターに組織・細胞選択性を付加する
組織・細胞選択的に天然物を生合成させるための仕組みをベクターに施す。例えば、癌特異的プロモーターや酸素濃度・pHなどの環境変化に応答するプロモーターなどを用いて、癌細胞にだけ天然物生合成遺伝子を発現させる。改良したベクターを数種類の細胞に導入し、正常細胞には影響を与えず、癌細胞でのみ選択的に細胞死を誘導できるか検証する。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2020

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] ヒト培養細胞を宿主とした抗生物質の生産2020

    • 著者名/発表者名
      松田真弥
    • 学会等名
      日本薬学会 第141年会

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公開日: 2021-12-27  

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