研究実績の概要 |
我々は天然物生合成遺伝子をヒト培養細胞内で発現させ、体内で天然物を生合成することで直接病気を治す方法を考案した。しかしながら、これまでに微生物や植物由来の天然物生合成遺伝子をヒト培養細胞内で機能発現させた前例はない。そこで、本研究では天然物生合成遺伝子の機能発現により、ヒトがん培養細胞において天然物の生合成が可能であるか検証した。 宿主細胞は増殖が早く、遺伝子導入効率が高いヒト子宮頸癌由来細胞HeLaを用いた。また、HeLa細胞内で産生させる天然物として、Aspergillus fumigatusが産生するフマギロール前駆体に着目した。フマギロール前駆体は、酸化酵素であるFma-P450がβ-trans-bergamotene (1)を酸化することで生合成される。レトロウイルスベクター用いてfma-P450をHeLa細胞内で発現させ、さらに基質である1を培養液に添加してLC-MSによる分析を行った。その結果、培養液抽出物から5-hydroxyl-β-trans-bergamotene (2)および、5-hydroxyl-β-cis-bergamotene (3)が検出された。さらに、同細胞培養液から、dehydrodemethoxyfumagillol (4)が還元された5-epi-demethoxyfumagillol (5)を検出することができた。また、NMRによる分析を行った結果、同細胞培養液中に2, 3および5が存在することが確かめられた。これらの結果から、天然物生合成遺伝子を導入することで、ヒトがん培養細胞において天然物生合成遺伝子の機能発現が可能であることが明らかとなった。本法を改良・発展させることで、遺伝子治療への応用など新たな天然物活用法の開発に繋がることが期待される。
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