鉄腐食による水素発生と微生物の培養をそれぞれ異なるバイアル中でおこない、その気相部分をステンレスパイプ (内径約1.5 mm) で接続することで、長期間継続して低濃度水素を培養槽に供給可能な低濃度水素供給培養システムの構築に成功した。既知の嫌気性水素利用微生物(メタン生成アーキア、酢酸生成細菌など)を低濃度水素供給培養システムで培養し、本システムにより長期間の水素供給培養が可能であることを確認した。次に本システムを利用し、水田土壌、酸性泥炭土壌、池底泥、海洋底泥、地下炭鉱間隙水など、多様な嫌気環境サンプルを微生物源とし、低濃度水素を利用するメタン生成アーキアや酢酸生成細菌の集積培養をおこなった。その結果、ほとんどの低水素培養系でメタン生成アーキアもしくは酢酸生成細菌の増殖が確認された。さらに一部の培養系では、コントロールの高水素培養系では集積がみられず、低水素培養系でのみ集積が確認されたものもあり、低水素環境に特化した微生物の存在が示唆された。次世代シークエンス解析による集積物の微生物叢解析の結果、低水素培養系ではコントロールの高水素培養系とは系統が異なる、新規性の高い微生物種の優占が確認された。集積培養からメタン生成アーキアや酢酸生成細菌の純粋分離を試み、複数の集積系から水素利用微生物の分離培養に成功した。その中でも特に既知微生物との相同性が極めて低い2株について培養実験を実施し、これら分離株が低水素環境に高度に適応していることを確認した。また両株のゲノム解析および定量RT-PCRによる遺伝子発現解析を実施し、ゲノム上に保有する複数のヒドロゲナーゼの使い分けが低水素環境適応に寄与していることが示唆された。
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