本研究は、環境中の微生物は「実際には」どのように存在するのか、という疑問に答えることに挑む。環境中には微少かつ構造的に脆弱な「ゆるい」バイオフィルムが存在しているが、それらは既存の微生物学的手法では解析できないためにバイオフィルムとして認識されておらず、集団活性をはじめとする群集としての機能が無視されている可能性が高い。本研究では「ゆるい」バイオフィルムの分取および非破壊的な可視化、さらに網羅的な遺伝子解析を実施することでその実態を明らかにすることを目指した。「ゆるい」バイオフィルムの成立には同種・異種を問わず微生物細胞間での相互作用が必要になるが、特に環境中において複合的なバイオフィルム形成に関わる異種間相互作用は未解明であった。 当該年度は下水処理水をサンプルや魚類を宇飼育する水槽の水をサンプルとして用いて「ゆるい」バイオフィルムの立体構造やその微生物群集構造の詳細な解析を試みた。前年度までに考案した物理的に脆弱な構造をもつ集団の可視化手法を用いて環境サンプルを観察すると、複数の「ゆるい」バイオフィルムがクラスター化することでより大きな、成熟した大きなバイオフィルムを形成存在している可能性が示唆された。顕微鏡による構造観察の結果、バイオフィルムを構成する小さな集団の構造は均質ではなく、構成種も異なっている可能性が示唆された。今後は、自然環境中で「ゆるい」バイオフィルムのまま存在する小集団を分取解析し、成熟したバイオフィルムを形成する機構について詳細な研究が待たれる。
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