研究課題/領域番号 |
19K22304
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
福原 敏行 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (90228924)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | トマト / RNA干渉 / 2本鎖RNA / カロース合成酵素 / トマト萎凋病 |
研究実績の概要 |
本研究は、今のところ有効な防除法がないウイルス病や土壌病害、およびアブラムシ等の害虫に対して抵抗性のある安心・安全なワクチン苗を開発することを目的とする。植物の幼苗を茎(胚軸)で切断し2本鎖RNAを含む水溶液に浸すことで、2本鎖RNAを直接植物体に導入すると同時に発根を促し、植物にRNA干渉による病害抵抗性を付与したワクチン苗を開発する。もしくは植物体内に直接導入した2本鎖RNAを取り込んだ害虫や病原菌をRNA干渉によって弱毒化・無毒化もしくは殺虫する苗を開発する。 トマトのうどん粉病および萎凋病は、いずれもトマトのカロース合成酵素遺伝子の発現を抑制することで防除できる可能性が先行研究により示唆されている。令和元年度は、トマト苗に萎凋病に対する抵抗性を付与する目的で、カロース合成酵素(SlPMR4-h1およびSlPMR4-h2)遺伝子に対する2本鎖RNAを幼苗に吸収させ、SlPMR4-h1およびSlPMR4-h2に対するRNA干渉の誘導の可能性を定量PCR法で評価した。SlPMR4-h1遺伝子に対する2本鎖RNAを導入したトマトにおいては、導入7日後の本葉においてmRNA蓄積量が50%程度に低下した。同様にSlPMR4-h2遺伝子に対する2本鎖RNAを導入した場合は、導入7日後の本葉においてmRNA量が35%程度に低下した。この結果から、本法を用いて遺伝子組換えではない手法でトマト植物体にRNA干渉を誘導し、遺伝子発現量を抑制することが可能であることが示唆された。同時に、2本鎖RNA導入7日後のトマト幼苗は発根しており、そのまま定植可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、トマト苗に萎凋病に対する抵抗性を付与する目的で、カロース合成酵素(SlPMR4-h1およびSlPMR4-h2)遺伝子に対する2本鎖RNAを幼苗に吸収させ、SlPMR4-h1およびSlPMR4-h2に対するRNA干渉の誘導の可能性を定量PCR法で評価した。SlPMR4-h1遺伝子に対する2本鎖RNAおよびSlPMR4-h2遺伝子に対する2本鎖RNAを導入したトマトにおいては、導入7日後の本葉においてそれぞれのmRNA蓄積量が50%および35%程度に低下したことから、本法を用いて遺伝子組換えではない手法でトマト植物体にRNA干渉を誘導し、遺伝子発現量を抑制することが可能であることが示唆された。同時に、2本鎖RNA導入7日後のトマト幼苗は発根しており、そのまま定植可能であることを確認した。これらの研究成果は、トマトの幼苗を茎(胚軸)で切断し2本鎖RNAを含む水溶液に浸すことで、2本鎖RNAを直接植物体に導入すると同時に発根を促し、トマトにRNA干渉による病害抵抗性を付与したワクチン苗を開発できる可能性を示す結果であり、概ね順調に進んでいると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、トマト苗に萎凋病に対する抵抗性を付与する目的で、カロース合成酵素(SlPMR4-h1およびSlPMR4-h2)遺伝子に対する2本鎖RNAを幼苗に吸収させたところ、導入7日後の本葉において、それぞれのmRNA蓄積量が50%および35%程度に低下した。すなわち、本法を用いてRNA干渉を誘導し遺伝子発現量を抑制することが可能であることと、2本鎖RNA導入7日後のトマト幼苗は発根しており、そのまま定植可能であることを確認した。今後は、定植したトマト植物体において導入2本鎖RNAの効果(RNA干渉による遺伝子発現抑制)の持続性を、経時的にRNAを抽出し定量PCRにより評価する。トマト萎凋病菌に対する抵抗性を付与したトマト苗(ワクチン苗)の開発には、RNA干渉の持続性が重要なポイントとなる。RNA干渉の持続性の評価と共に、実際にトマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum)を接種し、抵抗性を評価する。 さらに、トマト萎凋病菌の病原性に関与する遺伝子(例えば、SIX (Secreted In Xylem)遺伝子)に対応する2本鎖RNAを直接トマト幼苗に導管から吸収・導入させ、その後発根させた2本鎖RNA含有苗を作成する。このトマト苗にトマト萎凋病菌を接種し、導管に侵入した萎凋病菌が2本鎖RNAを吸収することで、病原性遺伝子にRNA干渉を誘導することを試みる。トマト萎凋病菌の病原性遺伝子の発現がRNA干渉により抑制できればトマトに対する病原性の低下が誘導されることになり、トマトに萎凋病菌抵抗性を付与することが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の交付内定通知を6月末に受け取り、研究費の執行が9月以降になったことから、当初の予定よりも物件費の使用が少なくなったことと、新型コロナウイルス感染拡大の為、3月に予定していた国内出張が取りやめとなったことから、当初の予定よりも予算使用額が少なくなり次年度使用額が生じた。 本年度は、物件費を中心に当初の計画に従って使用する計画である。
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