研究課題/領域番号 |
19K22310
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
曵地 康史 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 教授 (70291507)
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研究分担者 |
甲斐 建次 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (40508404)
大西 浩平 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 教授 (50211800)
木場 章範 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 教授 (50343314)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 青枯病菌 / クオラムセンシング / 2次代謝物質 / 病原性 |
研究実績の概要 |
青枯病菌OE1-1株とクオラムセンシング (QS)能欠損株のトランスクリプトーム解析から、QSにより発現が誘導される、アシルホモセリンラクトン (AHL)産生酵素をコードすると推定されるsolI遺伝子とlasI遺伝子を同定した。AHLは、Pseudomonas属細菌やErwinia属細菌でQSシグナルとして機能する。solI遺伝子欠損により、 N-hexanoyl-L-homoserine lactone (C6-HSL)とN-octanoyl-L-homoserine lactone (C8-HSL)の産出能が失うとともに、病原力が有意に低下した。さらに、QSに抑制される運動能が増大した。lasI遺伝子により、運動能と病原力に関わるIII型分泌装置能が著しく低下した。solI遺伝子欠損株とlasI遺伝子欠損株のトランスクリプトーム解析から、solI遺伝子欠損により、運動能関連遺伝子を含むQSにより制御されている遺伝子の一部の発現が有意に変化することが明かになった。さらに、lasI遺伝子欠損により、III型分泌装置関連遺伝子hrp遺伝子群の一部と運動能関連遺伝子の一部の発現が有意に低下した。すなわち、QSにより産生が制御されるAHLは、QS依存形質の一部の制御に関わると考えられた。しかし、C6-HSLまたはC8-HSLの加用によりsolI遺伝子欠損株の運動能は相補されなかった。さらに、LasIタンパク質の推定アミノ酸配列からOE1-1株での産生が想定される N-oxo-hexanoyl-L-homoserine lactoneまたはN-oxo-octanoyl-L-homoserine lactone の加用によりlasI遺伝子欠損株の運動能は相補されなかった。これらの結果から、AHLは、OE1-1株では細胞間情報伝達に関わるのでなく、細胞内情報伝達に関わると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで、クオラムセンシング (QS)により産生が誘導される2次代謝物質の中から、ラルフラノンと主要な菌体外多糖EPS Iが、青枯病菌OE1-1株の細胞間情報伝達に関わり、その結果、QS依存遺伝子の発現をフィードバック制御することを明らかにしてきた。2020年度、OE1-1株とQS能喪失株のトランスクリプトーム解析により、アシルホモセリンラクトン (ATL)をQSシグナルとするPseudomonas属細菌とErwinia属細菌のAHL産生酵素と、推定アミノ酸配列が高い類似性を示すsolI遺伝子とlasI遺伝子を同定した。solI遺伝子欠損により、C6-HSLとC8-HSLの産出能を失い、一部のQS依存遺伝子の発現とともにQS依存形質の一部に変化が認められた。さらに、lasI遺伝子欠損によっても一部のQS依存遺伝子の発現とともにQS依存形質の一部に変化が認められた。しかし、solI遺伝子欠損株とlasI遺伝子欠損株において、それらのQS依存形質がAHL添加により変化が認められなかったことから、QSにより産生が誘導されるAHLは、細胞間情報伝達ではなく、細胞内情報伝達に関わり、細胞外からのAHL添加による影響は受けないと考えられた。そのため、ラルフラノンやEPS Iと同様の化学的相補を指標にした実験系を用いることができないと判断された。その判断に、多種多様な実験を行ったため、AHLの細胞内情報伝達を明らかにするために必要な新たな実験系の開発に至らなかった。そのため、当初の予定よりは、やや遅れた進捗状況となった。
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今後の研究の推進方策 |
「クオラムセンシング機能のフィードバック制御に関わる青枯病菌細胞間シグナル伝達系の解明 」と「クオラムセンシング機能のフィードバック制御に関わる青枯病菌細胞間シグナル伝達系ネットワークの解明」を効率よく実施するために、当初の予定である「ヒスチジンカイネースに受容を介した2次代謝物質ラルフラノン、EPS IおよびAHLの感知とそれに伴うシグナル系の解明」から、「ラルフラノンとEPS Iそれぞれの産生能喪失株のRNA-sequencingによるトランスクリプトーム解析」と、「その結果を基にしたGO解析」により、「クオラムセンシング機能のフィードバック制御に関わる青枯病菌細胞間シグナル伝達系の解明 」を行う。これまでの研究成果から、ラルフラノンとEPS Iは青枯病菌細胞間情報伝達に関与し、AHLは細胞内情報伝達に関わる。そこで、AHL産生能喪失株のRNA-sequencingによるトランスクリプトーム解析結果を加え、それらの結果を基に、「クオラムセンシング機能のフィードバック制御に関わる青枯病菌細胞間シグナル伝達系ネットワークの解明」とともに、「クオラムセンシング機能のフィードバック制御に関わる青枯病菌細胞内シグナル伝達系ネットワークの解明」を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度から2020年度への持越しが540,0801円あり、AHLの青枯病菌細胞間情報伝達機構の解明を行うことができなかったため、次年度使用額が593,843円に増額した。本次年度使用額は、当初予定していなかったRNA-sequencingによるトランスクリプトーム解析に使用する。
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