本課題ではアリを題材に、腸内微生物叢に由来する‘匂い'がフェロモン等の化学交信による昆虫の社会行動に関与するか否かの解明を目指す。特にアリの同巣認識に注目し、腸内細菌叢の類似性が同巣認識に及ぼす影響について、腸内微生物叢解析および匂い物質の分析を通して検証する。本年度は好蟻性種として、アリヅカコオロギ類、ヒラズコガ類、ハネカクシ類、アリヅカムシ類、アリスアブ類、それぞれのホストとなるアリとして、クロオオアリ、クロヤマアリ、ハヤシケアリ、トビイロケアリ、クサアリモドキ、トビイロシワアリ、アシナガキアリを材料とし、16S rDNAアンプリコンシーケンスによる腸内微生物叢解析を進めた。その結果、アリと好蟻性昆虫との間で腸内細菌叢の共通性はほとんど見られなかった。普遍的な共有性が認められないことから、好蟻性昆虫がアリの巣に住み込むにあたって、腸内細菌の共通性に起因する匂いの共有が寄与するという仮説は棄却されるものと考えられた。ただし、クボタアリヅカコオロギとクロオオアリ、および、トゲアリスアブとクロヤマアリの間にのみ、いくつかの菌の共通性が認められた。これらが両者の社会的関係に寄与している可能性は低いと推察されるが、共有に至る仕組みや普遍性、共有する意義については、今後の研究テーマとして興味のもたれるところである。 アリの同巣認識に寄与する揮発性物質の捕集方法を検討するために、テナックスTAおよびモノトラップを用いてクロナガアリ・クロヤマアリの巣臭捕集を試みた。各々、巣周辺土壌と巣内揮発臭を分析比較したが、アリ由来と推定される顕著な匂い物質は検出されず、本研究ではアリ巣周辺の揮発性成分捕集に関する有効な技術開発はできなかった。
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