| 研究課題/領域番号 |
19K22321
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| 研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
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研究代表者 |
今野 浩太郎 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (00355744)
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| 研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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| キーワード | シュウ酸カルシウム針状結晶 / raphide / 耐虫性物質増効果 / サトイモ科植物 / ポトス / 摂食拒否行動誘起物質 / 神経伝達物質・痛み物質 / システインプロテアーゼ |
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| 研究実績の概要 |
サトイモ科植物に含まれるシュウ酸カルシウム針状結晶が関与する顕著な昆虫摂食拒否作用の調査を行った。サトイモ科植物は食べたり組織粉砕液が肌に触れると、皮膚や口内にえぐみ、痛み、炎症等（アレルギー反応）を起こすことが知られている。我々はポトス等のサトイモ科植物を昆虫（エリサン幼虫に）摂食させると最初はかじるが、その後すぐ（数秒-数十秒後）に頭部を持ち上げて左右に動かし口を開閉する顕著な摂食拒否行動を起こすことを発見した。サトイモ科植物を人間がかじった場合も急激（１０秒以内）に激しい痛みを感じることから、昆虫の摂食拒否と人間が感じる痛みに何らかの関連が考えられた。ヘプタン等の有機溶媒中で粉砕し回収したポトス針状結晶は顕著な昆虫摂食拒否行動を起こしたが、針状結晶を水洗したものや、キウイフルーツの針状結晶などは拒否行動を誘起しなかったことから、ポトス針状結晶表面での拒否行動誘起物質の存在が推察された。サトイモ科植物のかゆみ（炎症）反応に関し、針状結晶表面のシステインプロテアーゼが原因物質だという先行報告があるため、昆虫の摂食拒否行動活性でもシステインプロテアーゼが原因物質である可能性を検討した。システインプロテアーゼ特異的な阻害剤であるE-64で活性ポトス針状結晶を処理・共存させ場合でも摂食拒否活性が減少は観察されなかった。また、ブロメラインなどの植物由来のシステインプロテアーゼを針状結晶に共存させた場合も1日後に致死性は検出されるが、数十秒程度以内の明確な摂食拒否反応は見られなかった。このことから、急速な摂食拒否行動におけるシステインプロテアーゼの関与を確認できなかった。一方、シュウ酸カルシウム針状結晶を神経伝達物質・痛み物質のセロトニンと混ぜて塗布し食べさせると摂食拒否行動を誘起できたことから、何らかの神経伝達・刺激物質がポトスの針状結晶に存在している可能性が示された。
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポトスのシュウ酸カルシウム針状結晶がもつ顕著な昆虫に対する摂食拒否行動誘起効果の原因物質の同定にはまだ至っていないが、これまでサトイモ科植物のシュウ酸カルシウム針状結晶が人間に対して持つえぐみ・痛み・炎症効果の原因物質と過去の研究者が推測しているプロテアーゼインヒビターが、昆虫に対して摂食拒否行動を誘起する物質と同じであることに疑念を示すデータを得た（システインプロテアーゼ阻害剤E-64で摂食拒否行動誘起効果が失われえないこと、針状結晶と市販の植物システインプロテアーゼで拒否行動が起こらないこと、拒否行動が数秒から数十秒以内と極めて短時間で起こる点など）。一方で、セロトニンなどの神経伝達物質・痛み物質はそれ自体では摂食拒否行動をおこさないキウイフルーツ針状結晶と混ぜたときに摂食拒否行動を10秒以内の短時間で起こすことが判明した。これらの結果はサトイモ科植物のシュウ酸カルシウム針状結晶に付随する昆虫摂食拒否行動誘起物質や、ひいては人に対する痛み効果を起こす物質の解明に向けた大きな一歩であり、シュウ酸カルシウムが他の耐虫性物質の効果を増強する効果の解明にもつながる。
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| 今後の研究の推進方策 |
ポトスのシュウ酸カルシウム針状に付随し針状結晶により増強される昆虫摂食拒否行動誘起物質の同定を行う。そのために、針状結晶から抽出してきた摂食拒否行動誘起物質・活性を再び針状結晶に再添加しバイオアッセイで活性を安定的に再検定する系の作成を行い、そのうえで活性物質を精製し、NMRなどの分析法を用い同定を行う。またこの昆虫に対して摂食拒否行動を誘起する物質がサトイモ科植物を食べたときにヒトが感じる痛みの原因物質と関係があるか確認する。シュウ酸カルシウム針状結晶がキチナーゼの耐虫性効果を顕著に増強する働きに関しても研究を進める。これとは別に乳液の中に含まれるゴム（ラテックス）物質が共存する耐虫性物質の効果を増強するかも検討をする。
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| 次年度使用額が生じた理由 |
年度途中にサトイモ科植物を育成するために用いる植物インキュベーターのうちの１台のコンプレッサーが不調になり冷却不良がでていたが、年度末に修理・交換のため５０万円弱を使用せずにとっておいて年度末に修理を依頼したが、製造から年数がたっていて交換のためのコンプレッサーが最近製造中止になり製造業者に在庫もなかったため修理不可能であることが判明し、このため次年度使用額が生じた。次年度（令和２年度）の使用計画としては、サトイモ科シュウ酸カルシウム針状結晶表面に存在する昆虫摂食拒否行動誘起物質の精製・同定に用いる試薬・カラム・依頼分析費としての利用、増強物質が耐虫性物質をの細胞内・組織内への透過を容易にする効果の検定に用いる試薬、植物の育成やバイオアッセイ昆虫であるエリサンの飼育にかかる経費（飼料・肥料費等や飼育人員の雇用費）、論文出版にかかる経費（投稿日・論文校閲費）、成果の発表に関わる学会の参加費等として使用していく計画である。
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