研究課題/領域番号 |
19K22321
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
今野 浩太郎 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (00355744)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | シュウ酸カルシウム針状結晶 / サトイモ科植物 / ポトス / 昆虫摂食拒否行動誘起物質 / 痛み物質 / セロトニン / 神経伝達物質 / 相乗的耐虫効果 |
研究実績の概要 |
サトイモ科植物におけるシュウ酸カルシウム(以下針状結晶)が関与する昆虫の摂食拒否行動誘起活性についてポトス(サトイモ科植物)とエリサン(ガ幼虫)を用いて検討した。初年度(令和1年度)までに、ポトスの針状結晶表面何らかの水溶性の摂食拒否行動誘起物質の存在が示唆された。前年度(令和2年度)の実験で、従来可能性が報告されているシステインプロテアーゼ(以下cp)を針状結晶と同時に摂食させても摂食拒否誘起活性は観察されずポトスでは観察されない黒変致死が起こることから、従来の説と異なりにcpは関与しない可能性が強く示唆された。そこで昨年度(令和3年度)他の可能性のある物質を検討した。コンニャクなどのサトイモ科植物葉をヒトがかじった時に激烈な痛みがすること、その痛みがアシナガバチに刺されたときの痛みと似ていること、アシナガバチ毒に含まれる主要痛み物質がセロトニンであること、コンニャクなどサトイモ科植物にセロトニンが含まれること、セロトニンは昆虫の神経伝達物質であること等の事実から、サトイモ科植物の昆虫摂食拒否行動誘起物質として、セロトニンの関与の可能性が考えられた。そこで針状結晶をセロトニンとともにエリサン1齢および2齢幼虫に摂食させる試験を行った。その結果、セロトニンと針状結晶を同時にヒマの葉に塗布しエリサンに摂食させた場合に最も成長が遅くなった。しかし、その成長阻害活性はセロトニンの成長阻害活性と針状結晶の成長阻害活性の相加的作用を大きく上回るものではなく、相乗的効果があるとは断定できなかった。一方、セロトニンと針状結晶を同時に葉に塗布して食べさせた場合のみ、弱いながらポトスの葉を摂食したときに見られるのと同じ首を横に振り口の開閉を繰り返す摂食拒否行動が初めてはっきりと観察された。この結果はサトイモ科植物の昆虫摂食拒否行動誘起にセロトニンなどの神経伝達物質の関与の可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2,令和3年度はどちらの年度も新型コロナウイルスの流行で、長期・複数回の自宅待機歩いじは在宅勤務などを行う必要があった。実際研究所内で近くの研究室で研究している研究員の感染で急な自宅待機・在宅勤務命令が出たこともあった。結局自宅待機や在宅勤務で数か月以上の研究の遅れが出たため、当初の計画より進展がかなり遅れてしまい、研究期間をR4年度まで一年間延長することになった。しかし、予期しなかった新規の結果(セロトニンとシュウ酸カルシウム針状結晶の共存によるポトス葉で見られたのとほぼ同じ顕著な摂食拒否行動誘起活性の初確認)が行われるなど、意味のある顕著な進展もあった。このため全体としてみて「ややおくれている」という評価が妥当と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、シュウ酸カルシウム針状結晶(キウイフルーツ由来)とセロトニンを同時にヒマの葉に塗布した場合に、ポトスの針状結晶にみられる昆虫摂食拒否行動誘起活性を検出することができたが、その活性はポトスそのものよりは低かった。この結果はポトスにおいてもセロトニンあるいはセロトニン関連物質が関与している可能性を示しているが、本当にそうであるかを確かめるためには、ポトスのシュウ酸カルシウム針状結晶の表面あるいは近辺にセロトニン関連物質が存在しているかどうか触接検出する必要があり、本年度検出に向けた試みを行っていきたい。また、昨年度、針状結晶(キウイフルーツ)とセロトニンの共存時(同時塗布時)に検出した昆虫摂食拒否行動誘起活性は、ポトスの針状結晶のものよりは弱かった(行動を起こす個体の頻度が低かった)が、この原因も突き止めたい。特にポトスなどサトイモ科植物の針状結晶は溝がある形状をしていてそこに共存物質を保持可能な構造・形態をしているのに対し、昨年実験に用いたキウイフルーツの針状結晶は単純な円錐形(円筒形)の針の形状をしていて共存物質を多量には表面に保持できない可能性がある。針状結晶の形態の差が、2つの針状結晶で違うことが活性の強さが違う原因かどうか、ポトスなどのサトイモ科の針状結晶を用いた試験を本年度は行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度,令和3年度はどちらの年度も新型コロナウイルスの流行で、長期の自宅待機、在宅勤務などを行う必要があり、実際研究所内で近くで研究している研究員の感染で急な自宅待機・在宅勤務命令が出たこともあった。結局自宅待機や在宅勤務で長期にわたり研究室で実験することが出来ず、実験をできる期間も分断されていて、なかなか計画通りに研究を進めることが出来なかったため、当初の計画より進展がかなり遅れてしまい、研究予算の使用に遅れがでため、研究期間を令和年度まで一年間延長することになった。令和4年度には、サトイモ科植物(ポトス等)の針を直接採取して表面についている物質(セロトニン等)の存在を突き止めるための実験に必要なセロトニン検出試薬やNMR測定に関連する試薬等の試薬、本研究で用いるバイオアッセイ用昆虫であるエリサンの飼育や維持にかかる餌代や飼育要員の人件費、論文作成・校閲・投稿などの出版関連費、学会参加・発表費として予算を使用していく予定である。
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