研究課題/領域番号 |
19K22325
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 直樹 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (30502736)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | DNAウイルス / マガキ / 細胞培養 / 二枚貝 / 感染症 / 無脊椎動物 |
研究実績の概要 |
カキヘルペスウイルス(OsHV-1)は養殖マガキの重要病原体として広く知られており、世界各地の養殖マガキ生産に甚大な影響をもたらしている。近年、OsHV-1はマガキ以外の二枚貝にも感染し死亡をもたらすことが明らかにされ、現在では多くの二枚貝養殖生産にとって極めて重大な脅威と考えられている。 このように食糧生産にとって重大な病原生物であるにも関わらず、OsHV-1に関する病原生物学的研究はあまり進展していない。その理由として、ウイルスの性質を理解するためには、宿主因子やその他の病原体等と分離して培養することが必要であるが、OsHV-1の場合、培養時に用いる二枚貝培養細胞系が確立されておらず、OsHV-1を分離培養できないことが最大の原因である。 そこで、本研究は、二枚貝から潤沢に供給可能である末梢血球を一定期間維持し、ここにOsHV-1を接種することで分離培養を行い、OsHV-1の株化と病原生物学的性状を明らかにすることに挑戦する。 研究年度1年目は、マガキの血球を採取しin vitroでの維持培養を試みたところ、抗生物質を添加した液体培地内で、血球が1週間程度維持培養できることを確認した。次に、OsHV-1の増減を調べるために使用する定量リアルタイムPCR系が各種開発されているが、本研究で使用するOsHV-1に最適な手法を選定した。以上の準備を終えた後、実際に発症したマガキ個体より得られたOsHV-1液を血球培養系に接種、定時的に培養上清を採取した。現在、定量リアルタイムPCR系によってウイルス量の増減を評価している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は血球培養系に接種したOsHV-1の増加を確認後、最適な培養条件検討まで実施することを計画していた。血球の維持培養については抗生物質を使用することで一定期間の維持が可能になったが、OsHV-1の増減を評価する定量リアルタイムPCR系の選定に時間を要した。これは、今回使用したOsHV-1株の研究で用いられてきたリアルタイムPCR系に不備があったもののこれに気づかず、コンタミンを疑ったことによって作業時間の多くを費やしてしまったことが最大の原因である。 その後、別の手法を用いることでこの問題は解決し、維持培養した血球への接種を行い、増殖を評価する継時的サンプリングまで終えた。しかし、コロナウイルス感染症による研究組織の閉鎖により当該サンプルのリアルタイムPCR系による評価ができないことも、やや遅れを生じている原因である。
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今後の研究の推進方策 |
研究年度2年目の本年は、1年目に実施したマガキの維持培養血球内に接種したOsHV-1の増減評価を行い、その結果に基づき、培養系の最適化を目指す。具体的には、培養温度、使用する血球細胞の密度について検討を行う。 最適化が終了後は培養系をスケールアップし、より多くのOsHV-1粒子を確保できる手法を確立する。さらに得られたOsHV-1粒子を使用しマガキへの感染実験実施、病害性の再現試験を行う。また、培養ウイルス粒子を用い、今後の研究に有用となる特異抗体も作成する。 さらに培養したウイルス粒子を用い継代培養の確立と冷凍保存法を確立し、OsHV-1研究に重要となる技術開発も行う。 現在、国内には20以上のOsHV-1株が分布するとされている。そこで、培養法の確立後は、上記の研究と並行し、国内のマガキより様々なOsHV-1株を収集し、OsHV-1研究基盤を創出することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
ウイルス量を測定する定量リアルタイムPCR系の確立に想定外の時間を要したことと、コロナウイルスの流行による研究室閉鎖が余儀なくされたため、研究計画に遅れが生じた。そのため、本来、予定していた分離培養条件の最適化を目指す規模の大きな実験をするに至らなかったため、次年度使用額が生じた。また、実験に用いるウイルス液について、当初はサンプリングを計画していたが、協力者からの提供を受けたためサンプリング旅費が不要となった。 定量リアルタイムPCR系に関する問題は解決され、翌年度は今年度の遅れを取り戻すよう順調に進むことが想定されるため、発生した次年度使用額についても、予定通りに使用していく予定である。また、研究の進行に従い、実験補助員を雇用する必要も生じてくるため、次年度使用額はそのための人件費としても支出する予定である。
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