研究課題/領域番号 |
19K22327
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
吉田 誠 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30447510)
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研究分担者 |
大津 厳生 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (60395655)
片山 葉子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 客員研究員 (90165415)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 真菌類 / 硫黄代謝 / 硫化カルボニル |
研究実績の概要 |
真菌類は木材の腐朽や表面汚染など木材製品の商品価値を引き起こすことから、木材を利用する上で、シロアリと並ぶ最も主要な生物劣化の原因である 。したがって、そのような木材劣化を引き起こす真菌類の生理学的な知見を蓄積することは、木材の生物劣化への対策を考える上で極めて重要である。 これまでの木材劣化性真菌類の生理学的研究は、セルロースやリグニン分解などの炭素源の獲得に着目したものが主流であった。その一方で、ミネラル類については、その生理的な重要性にも関わらず、研究例が少ないため、その生理学的な獲得経路や代謝における重要性についての情報は限られている。本研究課題は、生物の必須元素であり、ミネラル類の中でも自然界に比較的豊富に存在する硫黄に焦点を当て、真菌類における全く新規な硫黄獲得経路の存在を証明し、その全貌を明らかにすることを目指ししたものである。すなわち、糸状菌が気体状の硫黄化合物である硫化カルボニル(COS)を出発物質とした硫黄獲得経路を持つという仮説を立証することを目指す。具体的には、我々がCOS高分解菌として土壌から単離したTrichoderma sp.THIF08株を用い、網羅的硫黄含有化合物のメタボロミクス、トランスクリプトミクスなどにより、上記の仮説を3年間の期間内に立証することを目指す。 昨年度は、COSに含有される硫黄元素が糸状菌細胞に取り込まれ、代謝されている可能性が示唆されたが、本年度は、それをうけ、液体培地ではなく、固体培地を利用することで、培地中の水にCOSが溶解することで硫黄が取り込まれるのではなく、気体から直接細胞内にCOSが取り込まれることを見出した。さらに、多様な木材腐朽担子菌でも同様のCOS添加実験を行い、COS代謝系が真菌類に広く分布する能力であることを証明した。さらに、COS代謝の初発反応と考えられる酵素を特定し、COS分解活性を持つことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Trichoderma sp.THIF08株において、COSが実際に菌体内に取り込まれ代謝される際の取り込み経路について、COSが液体に溶解し、そこからとりこまれるのではなく、大気中から直接細胞内に取り込まれている可能性を見出し、さらに、その初発のCOS分解酵素を見出し、機能解析に成功している。Trichoderma sp.THIF08株の酵素の機能解析についてはすでに学術論文として公表されている。以上のように、これまでの研究で、Trichoderma sp.THIF08株がCOSを硫黄源として用いることができること、それが大気中から取り込まれ、分解酵素により変換されることまでを見出しており、また、このCOS代謝系が真菌類に広く分布する特性であることも見出している。したがって、十分に計画が進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Trichoderma sp.THIF08株の遺伝子網羅的解析の結果に基づき、COS代謝に関わる酵素遺伝子を明らかにするとともに、遺伝子ターゲティングにより、代謝に関連する酵素の詳細な機能を解析することを通じて、Trichoderma sp.THIF08株のCOS代謝の全貌を明らかにする。さらに、その成果を学術論文として投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍もあり、人件費および旅費が計画通りの執行に至らなかったため、来年度はその分も含めて人件費などによるマンパワーの確保をし、研究を強力に推進するとともに、非常に興味深い知見が得られてきているので、積極的に発表していく予算としても用いる。
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備考 |
日本木材保存協会第36回年次大会 優秀ポスター賞(飯塚瑠翔、小坂優介、吉田誠、片山葉子、大津巌生:木材腐朽菌による硫化カルボニル分解挙動の調査の発表に対して)
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